商標実務では、「ある商標とある商標が、似ているか(類似するか)どうか?」という点が、重要なポイントとなる場面が多くあることは、以前の記事でも述べました。
そして、この「商標の類似性」は非常に曖昧なもので、絶対的な判断基準がないという点も、以前の記事でお話しした通りです。
ただ、さすがにそれでは困りますので、特許庁では、商標の類似性の判断について、「商標審査基準」で以下のように定めています。特許庁の審査においては、これに基づいて、他の商標との類似性が判断されることになります。
1.商標の類否判断方法について
(1) 類否判断における総合的観察
商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
・・・。(商標審査基準「十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」)
一文が長いので、初めて読む方は「ちょっと、何言ってるかわからないですね。」と感じられるかもしれません。
あえて正確性は欠くことを前提に、わかりやすく言いますと、
商標が似ているかどうかは、それらの外観(見た目)、称呼(読み方)、観念(意味合い)等の比較や、それらの違いが需要者に与える影響とか、需要者の注意力などを総合的に観察して、出所混同のおそれがあるかどうかによって判断しますよ。
といった感じになるでしょうか。
単に商標同士を比較するだけではなくて、関連する商品・サービスの需要者(消費者、お客さん、顧客、ユーザー)のことも考慮しなさいよ、ということですね。
そして、「需要者の注意力」については、さらに以下のように定められています。
(3) 類否判断における注意力の基準
商標の類否は、商標が使用される指定商品又は指定役務の主たる需要者層(例えば、専門的知識を有するか、年齢、性別等の違い)その他指定商品又は指定役務の取引の実情(例えば、日用品と贅沢品、大衆薬と医療用医薬品などの商品の違い)を考慮し、指定商品又は指定役務の需要者が通常有する注意力を基準として判断する。(商標審査基準「十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」)
これも、「ちょっと、何言ってるかわからないですね。」となっている方のために補足しておきましょう。要は、「商標を間違えるかどうか」は、それらの商品やサービスの主な需要者の注意力にも左右されるものだから、そういった事情や業界の取引実情なども考慮した上で、商標が似ているかどうかを判断しなさいよ、という感じでしょうか。
たとえば、小さい子供が自分で買って遊ぶような玩具(おもちゃ)の場合、その商品の主な需要者は、それらの子供になると言えます。しかし、一般的に、小さい子供の注意力や判断力というのは、大人に比べれば低いと言わざるを得ないでしょう。
もし、このような商品に使われている商標同士が似ているかどうかが問題となっている場合、そういった子供たちの注意力の事情も考慮すれば、より出所混同のおそれが高くなる、つまり、「商標が類似する」と判断される可能性は高まる方向に働くわけです。
そういえば、私が小さい頃、「ビックリマンシール」(※「ビックリマンチョコ」というお菓子に封入されていたおまけシール)が大流行しました。このビックリマンシールについては、いわゆる「パチモノ」に騙された経験のあるキッズも少なくないと思います。私も見事に騙されました(苦笑)。
本物のシールには、製造販売元のメーカー名である「ロッテ」と表記されているのですが、このパチモノには「ロッチ」と表記されていたのです(ちなみに、「ロッテ」の文字部分が削除されて何も表記されていないバージョンのパチモノもありました)。
当時のビックリマンチョコの価格は30円。
つまり、子供たちは30円でシール1枚をゲットできたわけですが、このパチモノはなぜかガチャガチャで売られていることが多く、100円でシール5枚とか10枚が入っていた記憶があります。なので、子供たちにとっては、「割が良い」ものだったのです。
なので、私も喜んでしょっちゅう買っていた記憶がありますが(苦笑)、しばらく経ってから、友達に「これは偽物だ。よく見ると『ロッテ』が『ロッチ』になっている」と教えてもらうまで、ずっと騙されていたわけです。
もしこれが大人であれば、そもそもシールだけがガチャガチャで売られている時点で「胡散臭い」と感じるでしょうし、「ロッチ」のウソ表記にもすぐに気付くと思います。しかし、自分も含め、当時の周囲の状況を考えてみると、「子供の注意力」というのは、一般的に思われているより意外と低いものなのではないかと個人的には思います。
余談ですが、私は「武田信玄」と「上杉謙信」をずっと混同していました(笑)。
「しんげん」と「けんしん」。たしかに、前後を入れ替えたような名前ではありますが…。
ちなみに、最近の子供たちの玩具(おもちゃ)といえば、私が小さかった頃とは違って、ハイテクというか、高価なものが増えている印象があります。昔のように、子供が近所のおもちゃ屋さんなどで自分で買うというよりは、専門店やネット通販でお父さんやお母さんなどが買ってあげるというケースが多いのではないでしょうか。
こういった商品になってくると、同じ玩具(おもちゃ)であっても、主な需要者層はお父さんやお母さんのような大人であるから、一般的な大人の注意力を基準として、商標の類否を判断すべきという考え方もあろうかと思います。
というわけで、商標実務においては、商標が「似ている」と主張したいときでも、「似ていない」と主張したときでも、このように需要者の注意力についても触れて、自分の主張の補強材料にすることは大切な点でもあります。
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