「ロゴの商標調査の依頼を検討したいので、費用の見積もりが欲しい。」
「ロゴも商標登録をした方が良いか、意見を聞きたい。」
弁理士として商標の仕事をしていると、このような声を聞くことが結構あります。
しかし、正直なところ、これには困ってしまうことも少なくありません。
というのも、相談者等が言う「ロゴ」が、具体的に何を示しているのかわからないことがあるからです。そのため、相談者等が認識している「ロゴ」と、弁理士が認識している「ロゴ」の概念が、違うものになってしまう可能性が懸念されます。
この際、完成した実物のロゴを拝見できれば問題ないのですが、それができない場合も少なくありません。そのような場合に、相談者等と弁理士との意思疎通に齟齬が生じておかしなことにならないよう、注意が必要です。
その対策としては、「ロゴの商標」の態様を明確に伝えることが挙げられます。
と言っても、「〇〇〇の部分の色が何色で・・・」とか「〇〇〇の部分が斬新な特徴で・・・」といったデザイン的な細部まで、最初から伝えてほしいわけではありません。弁理士としてはまず、「そのロゴが、どのような構成要素によって作られているものであるか」を教えてほしいのです。
つまり、弁理士への伝え方にもコツがあるということです。
というわけで今回は、この点について少しお話したいと思います。
・ロゴマークの基本的な構成要素とは?
「ロゴの商標」にかかわる事業者の方々が「ロゴ」と言う場合、それが「ロゴマーク」を意味していることは間違いないでしょう。この点は、弁理士の認識も同じはずです。
ロゴマークを構成する基本的な要素としては、以下のようなものがあると言えます。
1.ロゴタイプ
→ 「文字」を装飾的・デザイン的に表したもの
2.シンボルマーク
→ いわゆる「マーク」で、図案化して表したデザイン
3.タグライン
→ スローガンやメッセージなど、付記的に表される文字
一般的な「ロゴマーク」の構成イメージは、「1+2」となるでしょうか。
たとえば、よく見かける企業ロゴを思い浮かべてみてください。
図案化されたマークの隣や上下に、デザイン化された文字で会社名が表されたロゴがイメージできるのではないでしょうか。
一方で、「1+2+3」の場合もありますし、「1だけ」の場合もあります。
「1と2がデザイン的に一体化」している場合もあるでしょう。
「3」だけというのは、あまりないかもしれませんね。
また、そのロゴマークにある「1」や「2」の構成要素が、それぞれ1つだけとも限りません。「1+2」の構成からなる要素Aと、別の「1+2」の構成からなる要素Bが結合したロゴというのも少なくないでしょう。
要するに、ひとえに「ロゴ」と言っても、構成のバリエーションは実に様々なのです。
・なぜ、弁理士が困ってしまう場合があるのか?
なぜ、相談者等に「ロゴの商標」とだけ言われると、弁理士が困ってしまう場合があるのでしょうか。その理由こそ、まさに上述のように、「ロゴ」と言っても、様々な構成のバリエーションが存在しているからです。そして、それが具体的にどのような態様なのか、「ロゴの商標」という言葉からだけではわからないからです。
では、なぜロゴの具体的な態様がわからないとダメなのでしょうか。
たとえば、冒頭のように、
「ロゴの商標調査の依頼を検討したいので、費用の見積もりが欲しい。」
といった問い合わせがあった場合。
まず、商標調査の費用は、「商標ごと」に算出されるのが一般的です。
そして、その商標が複数の構成要素から成立している場合は、「構成要素ごと」に調査が必要となる場合もあります。さらに、その構成要素が「文字要素」か「図形要素」かによって、調査方法が異なります。通常、「図形要素」の商標調査の方が作業的に大変ですので、一般的には、「文字要素」の商標調査よりも料金が割高となります。
では、「ロゴの商標」の場合はどうなるでしょうか。
基本的に、ロゴタイプの場合は文字要素、シンボルマークの場合は図形要素として商標調査がされることになります。ただ、デザイン化の度合いによっては、ロゴタイプでも図形要素の調査が必要となる場合もあります。ロゴタイプとシンボルマークが結合したロゴマークや、シンボルマークの中にロゴタイプがあるような、デザイン的に一体化したロゴマークの場合は、文字要素と図形要素の両方の調査が必要です。なお、企業キャラクターのイラストは、図形要素として調査をします。
さて、もうおわかりなのではないでしょうか。
結局のところ、「ロゴの商標調査」は、そのロゴマークを構成する要素の数や具体的な態様によって、商標調査の対象が決まってくるわけです。そして、商標調査にかかる費用は、それに応じて変動することになります。
ですから、「ロゴの商標調査をしたい」とだけ言われても、少なくともロゴマークの構成要素が把握できなければ、調査費用のお見積りをお出しすることは難しいのです。(文字や図形の商標調査を何件依頼しても定額という料金体系であれば可能でしょうが、そのような料金体系を採用している弁理士などまずいないと思います。)
なお、冒頭のように、「ロゴも商標登録をした方が良いか、意見を聞きたい。」と言われた場合も同様で、少なくともロゴマークの構成要素が把握できなければ、弁理士としてはコメントのしようがありません(もちろん、一般論としてはコメントできるでしょうが…)。
これらは、どんなベテラン弁理士であっても同じでしょう。
余談ですが、そのロゴの商標について、「どの構成要素について、どのような商標調査が必要か」の判断には、弁理士の手腕が問われます。調査の精度についても言えることですが、「誰に商標調査を依頼するか」という点は非常に重要です。「誰に商標調査を依頼しても同じ」にはなりませんので、この点には十分にご注意ください。
・弁理士に明確に伝えるためにはどうしたら良いか?
それでは、「ロゴの商標」の態様を弁理士に明確に伝えるにはどうすれば良いでしょうか。
当然ながら、もっとも理想的なのは、完成したロゴの実物を見てもらうことです。
今の時代、メール添付で、画像ファイルやPDFを送ることは難しくないでしょう。
面談や打ち合わせで、実際に説明をしながら見てもらえればより良いと思います。
依頼前の問い合わせや事前相談の段階で、実際のロゴについて情報開示をするのは抵抗があるかもしれませんが、弁理士には厳しい守秘義務が科されていますので、その点は安心して良いと思います。
それが難しい場合は、具体的な構成要素を、言葉でしっかり伝えることです。
この時、「ロゴタイプ」や「シンボルマーク」といった用語を用いることで、より伝わりやすくなるでしょう。たとえば、「花をモチーフにしたシンボルマークの横に、〇〇〇と△△△の文字を上下二段で、それぞれロゴタイプにして配置しているロゴマークの商標」と説明するだけでも、「ロゴの商標」とだけ言われるのとはまったく違います。このような説明があれば、たとえば、商標調査の費用についても、ある程度のお見積りが可能でしょう。
以上の点、弁理士に「ロゴの商標」について問い合わせをする際などには、ぜひご留意いただければと存じます。
というわけで、今回は弁理士視点でのお話になってしまいましたが、弁理士との意思疎通を図る際には意外と重要な点になりますので、ご参考になれば幸いです。
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