商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

【商標登録】出願をする理想的なタイミングとは?

商標登録を考えている事業者の方々が疑問に思っている事柄の一つとして、「出願をするタイミング」が挙げられるのではないでしょうか。すなわち、自身の商標について、「いつ、出願をするべきか?」という話です。

 

この点については、事業者の知識や知財意識の強さによって、認識にかなり差が出る印象があります。また、理想的なタイミングをわかっていても、諸事情から、その時期に出願をすることが難しいということも、実際には少なくないでしょう。

 

ただ、そのような理想的なタイミングを知っているというだけでも、事業者にとって有意義となり得るのは間違いないはずです。というわけで、今回は、商標登録出願をする理想的なタイミングについて、簡単にお話してみたいと思います

 

・理想的なのは、商標の使用開始前に登録完了ができるタイミング

商標登録をすると、「商標権」を取得することができます。そして、これにより、願書に記載した商品・サービスについて、その商標を独占的に使うことが認められます。言い換えると、その商標を事業で安心・安全に使うことが実質的に保証されるということです。

 

事業者にとってみれば、その商標を実際に使い始める前に、このような使用の安全性を確保しておくことが理想的なのは言うまでもありません。このように万全を期すことで、使用開始後に、他者から商標権侵害のクレームを受けたり、商標変更を迫られたりするトラブルに巻き込まれるリスクを、事前に回避することができます。

 

一方、ご存知のように、商標登録をするためには、出願手続をして、特許庁の審査をパスすることが必要です。最近では、この審査結果が出るまでに、だいたい6~8か月程度がかかっている印象です。
※ちなみに、特許庁の「商標審査着手状況(審査未着手案件)」のページで、審査着手までの目安となる期間が公表され、適宜更新されています。

 

ということは、商標登録の出願をする理想的なタイミングというのは、「自身がその商標を使い始める前に登録完了ができる時期」と言えるでしょう。より具体的には、「実際に商標を使い始める6~8か月以上前」ということになるでしょうか。

 

もちろん、これは審査で引っかかることなく、スムーズに登録が認められることが前提ですので、審査で引っかかりそうな場合は、予想される拒絶理由によって、事前に戦略を立てておく必要があるでしょう。

 

・おそらく、ほとんどの事業者の出願が「使用開始直前」というのが現状

上述のように、商標登録出願をする理想的なタイミングというのは、自身がその商標を使い始める前に登録完了ができる時期と言えます。しかし、現状としては、このような理想的なタイミングで出願されているケースは、あまり多くはないと思われます。

 

たしかに、知財を重視している大企業は、このあたりはしっかりしている印象があります。ただ、それも念入りに長期的な事業計画を立てられ、運転資金にも比較的余裕のある大企業だからこそ可能だと言えるのかもしれません。

 

日本の事業者の多くを占める中小企業や個人事業主にとっては、ビジネスは常にスピードが命と言えるでしょう。よって、新たな商標を考えてから使い始める前に、1年近くも待っている時間的な余裕などないのが一般的ではないかと思われます。

 

ですので、現状としては、多くの事業者の出願のタイミングはおそらく、その商標の「使用開始直前」とか、「使用開始後」となっているのではないかと思われます。

 

とはいえ、やはりこれでは相当なリスクがあることも否定できません。

 

商標登録が完了する前に、その商標の使用を開始する場合には、必ず事前に「商標調査」を実施して、その商標の使用が他人の商標権を侵害することがない点を確認しておくべきです。この商標調査は、「必ずやってください」と専門家として念を押してお伝えしたい点です。そして可能な限り、自分ではやらずに、弁理士できれば、商標専門の弁理士)に依頼することをお勧めいたします。

 

また、その商標の使用を開始して他人の目に触れるようになると、誰かが先に登録や出願をしてしまうリスクがあります。商標登録は、「早い者勝ち」のルールだからです。よって、少なくとも、その商標を実際に使い始める前までには、出願手続を完了させておくことも意識していただきたいと思います。

 

・早期の商標登録出願が、ネタバレ情報となってしまうジレンマも…

ところで、商標登録の出願については、手続から数週間~1か月後くらいには、その情報(出願内容)が公開(出願公開)されることになります。

 

今は、インターネット上で誰でも簡単にそれらの情報を確認することができます。X(旧Twitter)では、出願された商標の情報をひたすら垂れ流しているアカウントもあるようです。よって、実務家や専門家ではない一般の人たちが、このような情報を目にする機会も増えました。

 

一方、特に大企業などは、上述した理想的なタイミングで商標登録出願をすることが多いことから、新しく考案したネーミングなどについて、かなり早い段階で出願をすることも少なくありません。そうすると、それから約1か月以内には、その商標の情報が公になることから、世の中の多くの人々に知れ渡る可能性があります。

 

この点、商標によっては、いわゆる「ネタバレ」に繋がるおそれがあります。

 

たとえば、ゲーム関連企業の出願であれば、その商標から、今後、そのようなタイトルの新作がリリースされることを予測することができます。

 

また、よく話題になるのが、特撮テレビ番組である「仮面ライダー」や「戦隊ヒーロー」の次期シリーズのタイトルです。いずれもシリーズものとして長年続いていますが、東映株式会社は、これらのタイトル等について、放送開始前の数か月~半年前くらいには商標登録出願をしているようです。そのため、これらの商標の公開情報から、かなり早い段階で次期シリーズのタイトルが知られてしまう「ネタバレ」が発生しているようです。一般的には、放送直前に次期タイトルを公表して話題性を高めたいでしょうから、制作者側にとっては、悩みの種ではないかと思われます。

 

このように、商標登録出願のタイミングは、早ければ早い方が良いとはいえるものの、事業者によっては、それにより世の中に今後の事業計画や活動予定を知られてしまう可能性があるというジレンマがあり、なかなか難しい問題を含んでいるとも言えそうです。

 

以上、今回は、商標登録出願をする理想的なタイミングについて、簡単にお話してみました。ご参考になれば幸いです。

 

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