商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

意外!? 商標法に「商品」と「サービス」の定義はない!

商標とは、「商品やサービスの識別標識」のことです。
商品やサービスがあってこその商標、ということになります。

 

商標実務では、その商標を、どのような商品・サービスについて使うのかという点が常に基本になると言っても、過言ではないでしょう。また、商標を使う対象が、そもそも商品やサービスと言えるのかどうかという点が、しばしば問題になることもあります。

 

このように、商標実務においては、商品やサービスという概念が非常に重要となります

 

しかし、意外に思われるかもしれませんが、実は、商標登録などの商標制度に関するルールを定めている「商標法」という法律には、「商品」や「サービス」の定義がありません。(※ちなみに、法律上、サービスのことを「役務」と言います。以下、「役務」と記します。)

 

そのため、時には困ったことになりそうな場合もあります(苦笑)。
今回は、この「商品」や「役務」とは何ぞや?という点について、少しお話してみたいと思います。

 

・「商品」の一般的な解釈

上述のように、商標法には、「商品」の定義がありません
そのため、「商品とは何ぞや?」という点については、これまでに学説や裁判例などで様々な解釈が出されてきました。

 

現在では、特許庁の「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」で解説されている、以下の解釈で理解している人がほとんどだと思います。

 

<商品>
 商取引の目的たり得るべき物、特に動産をいう。

 

特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕」(P1531)

 

独立して商取引の目的になること、そして、流通性があることが、「商品」であるための条件というのが、一般的な考え方であると言えるでしょう。

 

なお、従来より「有体物であること」も「商品」であるための一条件と考えられてきました。ただ、平成14年に、無体物である「電子計算機用プログラム」等が「商品」に含まれることが明確化されたため、現在では、必ずしも絶対条件であるとは言えなくなりました。もっとも、「流通性があること」が条件となっている以上、基本的には「有体物であること」も一条件であると言えます。

 

また、以前は、「有償性」も「商品」であるための一条件と考えられることがありましたが、現在では、必ずしも有償か無償かには左右されないというのが、一般的な考え方になっています。

 

・「役務」の一般的な解釈

「商品」と同様に、商標法には、「役務(サービス)」の定義もありません
ただ、商品のように解釈には諸説あるというわけではなく、概ね、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」でも解説されている、以下の解釈で一般的に理解されています。

 

<役務>
 他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たり得るべきものをいう。

 

特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第22版〕」(P1531)

 

商品の解釈よりも、多少わかりやすいのではないかと思います。
他人のために行うこと、そして、独立して商取引の目的になり得ることが、「役務」となるためのポイントと言えるでしょう。

 

たとえば、第35類の区分に含まれる役務に、「広告業」がありますが、これはそれこそ「他人のために行う」広告が該当するのであって、自分のための広告を意味しているわけではありません特許庁の「商品及び役務の区分解説」にも、以下のように説明がされています。

 

【解説】
「広告業」(35A01)
 このサービスは、広告代理店等、主として依頼人のために広告を行うものが該当します。
 なお、自社の商品又はサービスの広告を自ら行うものは、このサービスに該当しないと考えられます。

 

※傍線は筆者による

特許庁「商品及び役務の区分解説〔国際分類第11-2022版対応〕」(P162)

 

よく誤解される点なので、商標登録を検討する際には注意が必要です。

 

・「小売等役務」について

ところで、平成18年からは、「役務」には「小売等役務」が含まれることが、商標法でも明確化されています。

 

小売等役務とは、いわゆる第35類の区分に含まれる「〇〇〇の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」と表記される役務のことです。(「〇〇〇」には、たとえば「薬剤」などの具体的な商品が該当します。)

 

商標法における小売等役務とは、商品の販売行為自体をサービスとして取り扱うわけではなく、具体的には、「商品の品揃え、陳列、接客サービス等といった、最終的に商品の販売により収益をあげる小売業者等の提供する総合的なサービス活動全体」のことを意味します。

 

そういった意味では、小売等役務とは、あくまで商品の販売に付随したサービスと言えますので、上述の役務の条件となる「独立して商取引の目的になること」を満たしているとは言えないかもしれません。

 

このあたりの点は若干モヤモヤしますが、小売等役務については「そういうもの」だと例外的に考えるしかないという印象です。すでに法改正から15年以上が経っているものの、小売等役務については、実務上もイマイチはっきりしていない点が少なくないというのが実際のところです。

 

以上、今回は、商標法には「商品」や「サービス」の定義がないこと、そして、それでは「商品」や「役務」とは何ぞや?という点について、お話いたしました。皆様のご理解が深まれば幸いです。

 

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