商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

「商標登録後に、区分や指定商品・指定役務の追加はできますか?」という質問

商標登録後に、区分や指定商品・指定役務の追加はできますか?

 

このような質問を受けることが、意外とよくあります。
すでにした商標登録の内容に、後から区分や指定商品・指定役務を追加できるか?
というのが質問の趣旨です。

 

多くは商標登録の経験がない事業者の方々からですが、すでに商標登録をしている事業者の方々から聞かれることもあります。

 

これだけよく聞かれるので、疑問に思っている方も少なくないと思われます。
そこで、今回の記事では、この点について少しお話してみたいと思います。

 

・すでにした商標登録の内容に、後から区分や指定商品・指定役務の追加はできない

結論から言うと、「できません」ということになります

 

商標登録後は、願書に記載していた区分や指定商品・指定役務について手を加えることは認められません。

 

なお、商標登録後に、一部の区分や指定商品・指定役務について、商標権を放棄したり、分割したりすることは可能ですが、まったく新しいものを追加することはいずれにしてもできません

 

一度確定した商標権の範囲が後から簡単に拡張すると、他者への影響が大きく混乱が生じてしまいますので、よくよく考えてみれば当然のことだと言えるでしょう。

 

・では、追加で商標登録したい区分や指定商品・指定役務がある場合はどうする?

とはいえ、ある商標の商標登録をした後で、他の区分や指定商品・指定役務についても商標登録しておきたいと考えることも少なくないでしょう。

 

たとえば、その商標を使った事業が順調で、新たな商品・サービス展開をするような場合は、それらについても商標登録したいと考えるのが自然ですし、必要なことです。

 

それでは、このような場合はどうすればよいのでしょうか?

 

このような場合は、同じ商標について、もう1つ商標登録を取得します。
すなわち、新たに必要となった区分や指定商品・指定役務を記載した願書を作成して、もう一度、特許庁に新しい出願をします

 

出願のやり直しというイメージではなく、追加分を新たに出願するイメージです。
たとえば、すでに第3類について商標「紫苑」を商標登録済で、後から第5類も商標登録したくなった場合、この第5類を対象とする願書を作成して、新たに特許庁に出願します

 

なお、商標がまったく同じでも、すでにしている商標登録との紐づけはされません。
すでにした商標登録とは、別個の取扱いとなります。
よって、通常の出願と同様に、新たな出願についても審査がありますし、審査結果が出るまでの時間が短縮されるわけでもありません。もちろん、登録査定が出たら、商標登録料を納付することが必要です。

 

上述の例の場合、無事に商標登録が認められると、以下の2件の登録商標保有するという状態になります。

 

・商標「紫苑」 第3類 (登録第6〇〇〇〇〇〇号)
・商標「紫苑」 第5類 (登録第6△△△△△△号)

 

登録日が異なりますから、存続期間の満了日も別々です。
それぞれの更新時期を間違えないように注意する必要があります。

 

・同じ区分の場合でも、新しい出願が必要?

すでに商標登録をしている区分と同じ区分の場合であっても、取扱いは変わりません。

 

たとえば、第3類「化粧品」について商標「紫苑」を商標登録済で、後から同じ第3類の「せっけん類」についても商標登録をしたくなった場合、たとえ区分が同じであっても、もう一度第3類を対象とする願書を作成して、新たに特許庁に出願します

 

この場合、無事に商標登録が認められると、以下の2件の登録商標保有するという状態になります。

 

・商標「紫苑」 第3類「化粧品」    (登録第6〇〇〇〇〇〇号)
・商標「紫苑」 第3類「せっけん類」(登録第6◎◎◎◎◎◎号)

 

指定商品や指定役務の内容が異なれば、同じ区分について、まったく同じ商標の商標登録が複数併存することもあり得るということです。
なお、この場合も存続期間の満了日は別々となりますので、誤解しないでください。

 

ちなみに、この例の場合、先の出願の時点で「せっけん類」を指定商品に含めておけば、そもそも追加で新しい商標登録をする必要はありませんでした。結果として、「モレ」が生じていたことになります。この場合、無事に登録ができたとしても、1件分の商標登録費用を無駄に負担したことになります。このようなことがないように、願書に含める指定商品・指定役務については、当初よりしっかりと検討することが大切です。

 

余談ですが、この例の場合、新たにする出願の指定商品に「化粧品」も一緒に含めることが可能です。これを含めて商標登録をしておけば、先にした商標登録は実質的に不要とも言えますので、後々「更新をしない」という選択肢が生まれます。

 

・出願後~商標登録前の場合は?

商標登録後、その登録内容に区分や指定商品・指定役務の追加はできないことがわかった。
では、出願してから商標登録がされる前ならどうなの?
このような疑問を持った方もおられるかもしれません。

 

この場合、基本的に登録査定が出る前の段階であれば、願書に記載した内容についての「補正」が可能です。ただし、「要旨変更」となる補正は認められません

 

では、「要旨変更」とは何ぞやという話ですが、ざっくりと言えば、記載していた内容の範囲を超える変更を加えてはダメよということです。

 

ですので、区分や指定商品・指定役務についても、願書に記載していた内容の範囲を超える追加はできないということになります。たとえば、第3類「化粧品」を指定商品として願書に記載していた場合に、「せっけん類」を追加する補正は認められません。

 

結局のところ、出願してから商標登録がされる前であっても、区分や指定商品・指定役務の追加が認められるのは、きわめて限定的となります。区分については、誤記の訂正に当たるような場合でなければ追加は認められませんし、願書に記載していた内容の範囲外の指定商品・指定役務を追加することは一切認められません。

 

このように、一度出願をすると、区分や指定商品・指定役務を追加することは実質的に不可能となりますので、出願前にはじっくり慎重に出願内容を検討することが大切となります。

 

以上、今回は「商標登録後に、区分や指定商品・指定役務の追加ができるか?」、すなわち、「すでにした商標登録の内容に、後から区分や指定商品・指定役務を追加できるか?」という点についてお話しました。

 

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