商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

事業者が自分(自力)で商標登録をするリスク

事業者の皆様が商標登録をすることを考えた場合、やり方としては主に二つあります。

 

一つは、我々のような弁理士に依頼する方法。
もう一つは、自分自身で出願から登録完了まで対応する方法です。

 

前者は、「弁護士」にも依頼はできますが、「弁理士」の方が一般的です。
後者は、「弁理士には依頼せず、自力でこなす」と、言い換えられるかもしれません。

 

商標登録に関する手続は、絶対に弁理士等に依頼しなければならないという決まりはありません。よって、事業者の方々が自分(自力)で行なうこと自体には、何の問題もありません。

 

インターネット上では、ブログ記事やSNSなどで、「自分だけでも商標登録ができた報告」を自慢気に語っておられる方も、たまに見かけますね。

 

しかし、適切な商標登録をするには、それなりの専門知識が必須と言えます。
言い方は良くないですが、何の知識も持たない素人が、手引書を片手にちゃちゃっとやって上手くいくほど、現実は甘くはありません。それで済むなら、そもそも我々弁理士の存在意義などほとんどありません(苦笑)。

 

もちろん、ケースにもよるでしょう。
そのような方法で上手くいく簡単なケースも、中にはあります。
ですが、それでもやはり、専門知識を持たない事業者の方々が自分(自力)で商標登録をするリスクについては、後から「こんなはずではなかった!」とならないように、ぜひ知っておいていただきたいところです。

 

ブログ記事やSNSなどで、「自分だけでも商標登録ができた報告」を見かけると、弁理士に依頼しなくても良いのではないかという気がするかもしれません。しかし、以下の点を知っていただくと、それがどれだけリスクの高いことか、お気付きになることと思います。

 

1.適切な商標登録ができていないリスク

まず挙げられるのは、「適切な商標登録ができていないリスク」です。

 

商標登録をするための手続自体はシンプルです。
ですので、実は「形だけの商標登録」であれば、難しいものではありません。

 

しかし、商標登録は、実際に有効に使えなければ登録をする意味はありません。
登録をすること自体が目的ではなく、事業で役立つことが目的です

 

有効に使える商標登録とするためには、願書に記載する

 

(1)「商標」が適切か?
(2)「指定商品・指定役務」が適切か?

 

という点が重要となります。

 

少なくとも、これらが適切であってこそ、「適切な商標登録」になると言えます。

 

事業者が自分(自力)で商標登録をする場合に注意したいのは、特に(2)と言えるでしょう。見当外れ、的外れな指定商品・指定役務が願書に記載されていた場合、「その商標登録は失敗している」と言っても過言ではありません。また、指定商品・指定役務の範囲を予備的にどこまで広げて記載するかという点も、「適切な商標登録」とするための重要なポイントとなります。

 

ちなみに、審査をする特許庁は、出願をした事業者が実際にどのような事業を行なっているのかや、その商標がどのような商品・サービスに使われるのかといったような、現実的なことについては、基本的には関与しません。

 

ですので、仮に願書に見当外れ、的外れな指定商品・指定役務を記載していたとしても、それらの記載が不明確であるなどの理由がない限り、何も言ってきません。当然、「貴社の業務からすると、間違ってますよ」なんて教えてくれることもありません。

 

つまり、たとえ「形だけの商標登録」ができても、それが必ずしも「適切な商標登録」になっているとは限らないのです。

 

この点、専門家である弁理士に依頼をしておけば、よほど手抜きな仕事をしていない限り、少なくとも「大きくはずす」ことはないでしょう。

 

一方で、何の専門知識も持たない事業者の方が、自分(自力)で対応した場合、このような適切な商標登録ができていないリスクというのは、高まると言わざるを得ません。

 

悲惨なのは、「適切な商標登録」ができていない場合でも、本人はその事実に気付く機会がないという点です。これは、かなりの「あるある」だと思います。いざという時に動き出して初めて、その失敗に気付くことになります。

 

「自分だけでも商標登録ができた報告」をするのは結構ですが、実は形だけの「意味のない商標登録」を達成して自己満足しているだけだった、なんてことにならないよう、注意をする必要があるでしょう。

 

2.審査で引っかかった場合に対応が困難となるリスク

次に挙げられるのが、「審査で引っかかった場合に対応が困難となるリスク」です。

 

審査に引っかからなかった場合、自分(自力)で対応しなければならないのは、出願手続と登録料の納付手続だけで実質的には済みます。この程度であれば、専門的な知識がなくとも、手引書を片手に何とかすることも可能だと思われます。

 

一方で、審査で引っかかった場合には、正直もうお手上げでしょう。
審査に引っかかると「拒絶理由通知」が届きますが、専門的な知識がない場合、おそらく書いてある内容の意味を、そもそも理解することも困難なのではないかと予想されます。

 

実際の対応にしても、時には弁理士であっても苦慮することが少なくないのに、専門知識を持たない事業者の方々が「自力で」というのは、非常にハードルが高いと言わざるを得ません

 

なお、上述したことと似ていますが、ここで見当外れ、的外れな対応をしても意味がありません。適切な対応(合理的な反論や補正手続など)をしなければ、審査官が判断をあらためて登録を認めることはありません

 

「拒絶理由通知」には通常、「これについて意見があれば、この書面発送の日から40日以内に意見書を提出してください。」と書いてありますが、当然ながら、法律的、実務的な見地・根拠に基づいて反論などをする必要があります。自分本位の理屈や感情的な意見を述べても無意味であり、時間と労力が無駄なだけです。というか、審査官からすれば、ただの迷惑です(苦笑)。

 

この点、専門家である弁理士に依頼をしておけば、審査官の判断を覆すために、専門知識と経験を活かして全力で対応してもらえるのが一般的です。

 

ちなみに、審査で引っかかってから弁理士に依頼することも可能です。

 

しかし、弁理士側の本音としては、「なぜ、最初から依頼してくれなかったのですか?」という気持ちはあるでしょう。また、指定商品・指定役務の記載が自分で考案・提案したものではないため、やり難いというのもあります。そのために、ベストな対策がとれないということもあり得ます。いずれにしても、対応をするにあたっては、出願内容のイチからの見直しや検討も必要なため、最初から依頼を受けていた場合よりも手間も時間もかかります

 

ですので、審査で引っかかってから弁理士に依頼した場合には、対応料金が割り増しとなるのは覚悟する必要があるでしょう。また、弁理士のモチベーションにも、あまり期待ができない場合が考えられることも、留意しておいた方が良いと思います。対応期限までに時間的な余裕がなくなってから相談すると、依頼を受けてもらえない可能性も考えられます。

 

3.何かあった場合の相談先が確保できないリスク

何かあった場合の相談先が確保できないリスク」というのも、挙げられるでしょう。

 

弁理士に依頼をして、良好なコミュニケーションがとれる関係になっていれば、弁理士は「かかりつけ医」のような存在となり得ます。

 

この場合、何か問題などが起こった場合には、迷わずすぐに相談することができるでしょう。弁理士側としても、まともな弁理士であれば、自分が関与した商標に関する相談について、真剣に対応しないということはあり得ません。至急の対応が必要であれば、すぐに動いてくれるのが普通でしょう。

 

一方、弁理士に依頼せずに自分(自力)で商標登録をした場合、その商標について何かトラブルが起こった場合でも、「すぐに相談できる相手がいない」という状況になってしまうでしょう。

 

そうすると、イチから相談先を探す必要があり、実際の対応までにも相当の時間がかかってしまうということになりかねません。また、弁理士側としても、事業者の方が自分(自力)で商標登録をした商標に関しての相談は、多少警戒するというのが正直なところだと思われます。場合によっては、相談等を断られるというケースもあるかもしれません。

 

専門知識を持たない事業者の方々が自分(自力)で商標登録をする場合、こういった将来的な観点からのリスクがあることも、留意しておいた方が良いでしょう。


他にもいろいろありますが、主なリスクとしてはこのような感じでしょうか。

 

なお、ここで挙げたのは、あくまで「専門知識を持たない」事業者の方々が自分(自力)で商標登録をする場合のリスクです。社内に弁理士がいる場合や、専門的な対応が可能な知的財産部などの部署がある事業者の場合は、もちろん別の話となります。

 

弁理士に依頼をしないメリットというのは、「費用の節約」くらいでしょう。
この「費用の節約」の程度と、これまでに述べた「リスク」の程度を比較衡量して、弁理士に依頼すべきかどうかを、ぜひ慎重にご検討いただければと思う次第です

 

なお、当職の事務所のウェブサイトには、以下の関連コラムもございます。

 

・「商標登録は弁理士に依頼すべき理由、弁理士の選び方の留意点

・「「商標登録の失敗」とは何を意味するのか?

・「その商標、商標登録できていたのに・・・

 

もしよろしければ、ご参照ください。

 

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