事業においては、ロゴマークがよく使われます。
一般の人々の感覚ですと、「商標」といえば、ロゴマークを思い浮かべる方も多いのではないかと思います。もちろん、その通りで、ロゴマークも商標になり得ます。
ということは、ロゴマークも商標登録の対象になるわけです。
実際に、ロゴマークの商標登録はとても多いです。
ただ、ロゴマークといっても様々です。
デザイナーのアイデアや手法の数だけ、いろいろな表現方法があると言っても過言ではないでしょう。
ところで、ロゴマークの中には、文字の一部を特にデザイン化したようなものを見かけることがあります。このデザイン手法は、ロゴ作りのアイデアとしてはメジャーな方だと言えるかと思います。
実は、このような「文字の一部を特にデザイン化したロゴマーク」については、商標登録などの商標実務の場面において、注意すべき点があります。
というわけで、今回はこの点について少し述べてみたいと思います。
・文字の一部をデザイン化したロゴマークとは?
「文字の一部を特にデザイン化したロゴマーク」といっても、なかなかイメージが難しいかもしれませんので、まずはこれがどのようなものかをご説明します。
たとえば、「Shion」という文字を元にしたとします。
このうち、「i」の部分を、花のような図形にしたロゴマークを想像してみてください。また、「o」の部分を、人や動物の顔のような図形にしたロゴマークでも良いでしょう。
イメージとしては以下のような感じでしょうか。
私が数分で適当に描いたものですが、何もないよりはわかりやすいかと思います(笑)。
「ああ!あるある、こういうロゴ!」
そんなふうにご理解いただけると良いのですが。
個人的には、こういったロゴマークにおいては、「A」、「e」、「i」、「O」などの文字が、デザイン化されて図形のように表現されているケースが比較的多いように思います。
・特許庁が、正しく文字を読んでくれるとは限らない!
このような「文字の一部を特にデザイン化したロゴマーク」も、当然に「商標」になり得ます。ですから、実際に、商標登録を考える事業者も少なくないことでしょう。
しかし、実は、こういったタイプのロゴマークについては、商標登録などの商標実務の場面において、特に注意すべき点があります。
それはズバリ、「特許庁が、正しく文字を読んでくれるとは限らない」という点です。
先程の「Shion」の例で考えてみましょう。
この中の「i」の部分を、花のような図形にしたロゴマークを採用したとします。
このロゴを一目見た際、関係者であれば「Shion」の文字をデザイン化したものであると理解できるかもしれません。一方で、何の予備知識を持たない人が一見して、これを「Shion」の文字だと必ず認識できると言い切れるでしょうか。もしかすると、認識できない人も意外と多いのではないでしょうか。
では、それの何が問題なのでしょうか?
これについて、商標登録の場面での一例を挙げてみましょう。
たとえば、このロゴマークが無事に商標登録された後に、第三者が商標「しおん」を、同じ商品・役務の分野で出願してきたとします。
「商標が似ているかどうか?」の判断は、主に①外観(見た目)、②称呼(読み方・発音)、③観念(意味合い)の共通性に基づいてなされるものですが、この中でも特に重視されるのが②称呼(読み方・発音)です。
よってこの場合、特許庁の審査官が、このロゴマークを当然に「Shion」の文字だと理解すれば、後から出願された第三者の商標「しおん」とは、「シオン」の称呼が共通するものとなります。その結果、この第三者の商標「しおん」は、普通に考えれば、このロゴマークに類似するとして登録拒絶となり排除されるはずです。
しかし、審査官が「Shion」の文字だと理解しない場合、たとえばこれを「Sh+図形+on」という構成の商標だと認識すると、どうなるでしょうか。
審査官が、このロゴマークを「Sh+図形+on」と理解した場合、これから生じる称呼は「ション(Shon)」だと考える可能性があります。そうすると、「シオン」の称呼が生じる商標「しおん」とは、「非類似(似ていない)」と判断される可能性が十分にあります。つまり、後から出願された第三者の商標「しおん」に、商標登録が認められてしまう可能性があるのです。
これでは、商標登録をした意義がほとんどなくなってしまいます。
本来は、「Shion」自体を保護したくて商標登録をしたはずです。
それなのに、その文字の一部を特にデザイン化したロゴマークを登録対象としたために、これが正しく読まれず、本来であれば類似と判断されるであろうはずの商標が第三者に登録されてしまうとすれば、あまりにも悲惨なことです。
というか、第三者が商標「しおん」を商標登録してしまうと、自身が「Shion」を普通書体などで商標として使用する行為が、商標権侵害になってしまうおそれもあります。
特許庁が、正しく文字を読んでくれるとは限らない。
「本当にそんなことあるの?」と思われるかもしれませんが、商標審決例を見てみると、こういった例は実際に散見されます。
文字をどこまでデザイン化すると、それが図形だと特許庁で判断されてしまうのかという基準はありませんので難しいところではあります。ですが、「文字の一部を特にデザイン化したロゴマーク」の場合、このような事態も起こり得ることに、ぜひ注意していただきたいところです。
・普通書体の文字商標も、一緒に出願・登録しておくのが無難
それでは、このような悲惨な目に遭わないためには、どうすれば良いのでしょうか。
一つの対策としては、普通書体の文字商標についても、ロゴマークと一緒に出願・登録しておくことです。上述の例では、たとえば「Shion」の標準文字商標を、一緒に出願・登録しておきます。
こうしておけば、たとえロゴマークが「Shion」の文字だと正しく特許庁に読んでもらえなくても、どこからどう見ても「Shion」と読める標準文字の登録商標が存在しますから、仮に後から第三者が商標「しおん」を出願してきたとしても、普通に考えれば、登録を排除することが可能でしょう。
出願の数が2件になってしまい、それだけ多くの費用がかかってしまうのが悩ましいところですが、やはり「リアルなリスク」を考えると、ここはケチる(?)ところではないと個人的には思います。あくまで、経営上の必要投資であると考えるべきでしょう。
ちなみに、ロゴマークの方を出願するのをやめて、「Shion」の標準文字商標だけを出願するという方法も考えられるかもしれませんが、これはこれで、第三者がロゴマークをマネしたような場合に有効な商標権が行使できないリスクがあります。やはり、両方とも商標登録しておくのがベストでしょう。
将来的に商標登録まで考えているのであれば、今後は、このようなデザインのロゴマークを作らない、採用しないというのも一つの対策です。
一般的なロゴデザイナーの方々は、商標実務の知識まではないと思われます。
弁理士の立場としては、事業者の方が作成を依頼したロゴマークを正式採用する前に、一度そのロゴマークについて、弁理士に意見を聞くなどの相談をしてほしいところです。
なお、当事務所の関連コンテンツに「ロゴ制作前に注意したい商標対策」がありますので、もしよろしければご参照ください。
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