商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

【商標登録】「第42類の指定役務が何かおかしいんです!」という話

若手の知財部員や法務部員、弁理士などの商標実務初心者の方が、ある程度「J-PlatPat」などのデータベースを使えるようになると、自分で商標調査を行なう機会も増えるかと思います。

 

そのような調査の中で見つけた登録商標について、

 

第42類の指定役務が何かおかしいんです!

 

という声を聞くことがあります。

 

いったい、何がおかしいのでしょうか?
それは本当に、おかしいことなのでしょうか?
今回はこの点について、少しお話ししたいと思います。

 

・「第42類の指定役務がおかしい」とは?

おそらく、こういった声が上がるのは、以下のような指定役務が記載された登録商標を発見した場合ではないかと思います。

 

 

何やら第42類に指定役務がたくさん記載されていますね。

 

しかし、最初に記載されている指定役務「宿泊施設の提供」を見てすぐに、「何かおかしい」と感じるのは正しい感覚です。なぜなら、現在、「宿泊施設の提供」は第43類に分類される役務だからです。

 

他にも、第43類にあるはずの「飲食物の提供」、第44類にあるはずの「美容,理容」や「入浴施設の提供」、第45類にあるはずの「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介」や「葬儀の執行」など、現在の分類では別の区分に含まれているはずの指定役務が、第42類に多数含まれていることがわかります

 

これではたしかに、「何かおかしい」と言いたくなるのももっともです。
もしかすると、過誤登録だと思った方もおられるかもしれません。
しかし、結論から言うと、このような第42類の指定役務の記載は、おかしいとは限りません。

 

・昔は第42類までしか区分がなかった!

では、なぜ「おかしいとは限らない」のでしょうか。

 

実は、サービスマークの商標登録ができるようになった今から30年ちょっと前、サービス(役務)が分類される区分は、第35類~第42類までしかありませんでした。

 

これが、今から約20年前に、国際分類の改訂に基づき、従来の「第42類」が、「第42類」、「第43類」、「第44類」、「第45類」に分割されることになったのです。わが国でも、これに合わせて、以来サービス(役務)が分類される区分は、第35類~第45類ということになりました。

 

つまり、今から30年前~20年前までの間の10年くらいにされた商標登録については、「第42類」の指定役務の中に、現在の「第43類」、「第44類」、「第45類」に分類される役務が混在していても、何もおかしくはないということになります。むしろ、当時の制度からすれば正常です。

 

このような商標登録(商標権)が更新され続けた結果、現在でも普通に残っている場合があるというわけですね。

 

このあたりの歴史的な変遷は、現在の第43類~第45類に分類される役務に付けられた類似群コードを見ても理解できます。それらのほとんどが、「42」で始まるコードになっていることがわかりますね。これは、元々第42類に分類されていた名残だと言えるでしょう。

 

なお、サービスの区分が第45類までになったのは、「国際分類第8版」からです。
第42類の指定役務が一瞬おかしいと思うような商標登録は、J-PlatPatの各商標情報の「国際分類表示」の項目が「第7版」や「第6版」となっているはずですので、確認してみてください。

 

上記の例の場合も、「国際分類表示」の項目が「第7版」になっています。
よって、この第42類の指定商品はおかしくはないということになります。
当然、商標登録(商標権)としても問題はなく、有効です。

 

ちなみに、言うまでもありませんが、現在において第42類に上記の例のような指定役務の記載をしても認められませんのでご注意を(苦笑)。

 

・商標調査への影響は?

商標調査は、類似群コードを指定して実施するのが一般的と言えます。
第42類から区分が変わっても、類似群コードが変わっているわけではないので、商標調査への影響は特にないと考えてOKでしょう。

 

注意が必要なのは、検索結果で出てきた商標の区分が、調査対象である役務が含まれる区分と異なっているからといってスルーしないことです。

 

たとえば、第44類「医業(42V02)」の分野において、ある商標の商標調査をしようとJ-PlatPatを叩いた結果、検索結果に区分が第42類の商標しか出てこなかったとしても、無視してはいけません。これが昔の登録商標であって、第42類で指定役務「医業」等を含んでいる可能性も考えられるからです。(というか、類似群コードで検索して出た結果であれば、まず含んでいると思われます。)

 

ごく基本的なことではありますが、商標調査の際は、発見した登録商標の区分だけを見るのではなく、類似群コードと実際の指定役務をしっかり確認することが重要です。

 


というわけで、たまに耳にする「第42類の指定役務が何かおかしいんです!」という声について、制度的にはおかしいとは限らないことをご理解いただけたかと思います。

 

それにしても、昔にした第42類の商標登録は、更新の際にはかなりお得ですよね。
今なら最大で4区分相当の更新費用がかかってもおかしくないのに、1区分の費用で済むということですものね。そりゃ、更新に代えた再登録はせずに更新し続けるよなぁという話です(笑)。

 

以上、ご参考になれば幸いです。

 

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