商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標の類似性、曖昧だから面白い

ある商標とある商標が、似ているかどうか?

 

実務的には、「商標が類似するかどうか?」などと言います。
商標の世界では、この点が重要なポイントとなる場面が多くあります。

 

たとえば、ある商標を商標登録しようとした場合に、それに似ている商標が、先に他人によって登録されていると、特許庁の審査で商標登録は認められません

 

また、商標登録をすることによって生じる「商標権」という権利は、その商標に似ている商標を他人が使う行為に対しても、効力が及びます

 

いずれも、商品・役務(サービス)の共通性が条件となります。

 

しかし、「どうなったら商標同士が似ていると言えるのか?」といった絶対的な判断基準というものは、実はありません。

 

主な判断要素としては、商標の(1)外観(見た目)(2)称呼(読み方・発音)(3)観念(意味合い)があり、これらの共通点や相違点が総合的に考慮されますが、どこがどんな風に共通していたら「似ている」のかといった明確な基準はないのです。

 

ちなみに、これらの要素のうち、実質的にもっとも重視されているのは、(2)称呼(読み方、発音)です。

 

そういうわけで、「ある商標とある商標が、似ているかどうか?」は、どうしても主観的な判断が入ってしまうことが否定できないと言わざるを得ません。

 

専門家である弁理士であっても、10人に聞いてみたら、「似ている」と考えたのが5人、「似ていない」と考えたのが5人になるなんてことも、まったくあり得る話なのです。

 

なお、「似ているかどうか?」という点は、はっきり言って誰でも感覚的に答えることができます。答えるだけなら、商標の知識がなくてもできます。子供でもできます(笑)。ですから、大事なのは結論自体ではなく、その結論に至るまでの理由や根拠、論理性です

 

そして、それらの理由や根拠、論理性にどれだけ説得力があるかによって、最終的な結論が左右されるということも少なくありません。ですので、変な話ですが、それぞれの主張の巧拙によって、商標が「似ている」となる場合、「似ていない」となる場合があると言っても過言ではないのです。

 

時代によって、結論が変わる場合もあります。
たとえば、ある商標とある商標について、10年前は特許庁の審査で「似ている」と判断されたのに、現在では「似ていない」と判断されるケース(またはその逆)も十分あり得る話なのです。

 

ちなみに、特許庁の審査で似ている他人の商標が発見されると、「拒絶理由通知」が送られてきますが、この通知では、どの商標が似ているかは指摘されますが、なぜ似ていると考えるのかという理由などは書かれていません。

 

このように、商標の類似性というものは、はっきりせず非常に曖昧です。
ある意味、商標は「正解がない世界」と言えるかもしれません。
この点が、商標実務が難しいと言われる理由の一つでもあると思われます。

 

しかし、だからこそ「商標は面白い」と、私などは感じます。
白黒はっきりつかない世界で、自分の力量次第で白黒付けることができる可能性があるからです。

 

このような特徴がありますので、結局のところ、商標実務は「センス」が大切になると思います。

 

では、このセンス磨くにはどうしたら良いのでしょうか?

 

あくまで私の考えですが、それには「商標を愉しむ」ことだと思います。
単に「好き」なだけでは足りず、「愉しむ」までに昇華することで、このようなセンスが生まれるのではないかと考えます。

 

論語」にも、次のような言葉がありますね。

 

これを知る者はこれを好む者に如かず
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず

 

「知っているだけの者は、好む者には及ばないし、好む者でも楽しむ者には及ばない」という意味です。まさに、この言葉がぴったりです。

 

私も、ぜひとも「商標を愉しむ」ことを日課にしたいものです!

 

なお、「商標の類似」については、過去に事務所ウェブサイトに以下のコラムも掲載しておりますので、もしよろしければご覧ください。

注意したい「商標の類似」に関する認識

 

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