商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標登録は攻撃されることがある

無事に商標登録ができた!
やったぜ!!

 

どのような事業者の方でも、自身の商標に商標登録が認められると嬉しいものだと思います。特に、審査で一度引っかかって、対応に力を尽くした結果、審査官の判断を覆して登録が認められたような場合は、喜びもひとしおでしょう。

 

あー、良かった。
これで安心、安心。

 

商標登録証も手元に届いて、「一件落着」のように感じられるかもしれませんね。

 

ですが、これで全てが終わるわけではない点には、注意が必要です

 

なぜなら、商標登録は「攻撃されることがある」からです。

 

もちろん、「攻撃される」というのはたとえです。
具体的には、商標登録をした後に、第三者がその登録を取消・無効にしようとアクションを起こしてくることがあります。

 

そのようなアクションを起こされた場合、大半のケースでは何らかの対応を取る必要があります。しかし、対応がうまくいかなければ、その商標登録は取消・無効とされてしまう可能性もあるのです。

 

よって、商標登録をした後も、決して油断はできないことに要注意です。

 

もっとも、攻撃されるかどうかは、事前に予測することは困難です。また、仮に攻撃されるとしても、いつになるかはわかりようがありません。
そういった意味では、「交通事故に遭う」のようなものと言えるかもしれません。

 

具体的な商標や、個別具体的なケースにもよりますが、一般的には、攻撃されない可能性の方が断然高いでしょう。しかし、万が一のときのために、「どのような攻撃手法があるのか」を、簡単にでも知っておくことは有用かと思います。

 

そこで今回の記事では、そのような「攻撃手法」の主なものを、簡単にご紹介します。

 

1.登録異議申立て

まずは、「登録異議申立て」が挙げられます。

 

商標登録がされると、その商標が掲載された公報(商標公報)が発行されますが、発行の日から2か月以内であれば、その商標が登録できない理由を指摘して、特許庁に異議を申し立てることができます。

 

異議申立ては、「何人も」、つまり、誰でもすることが可能です。
異議申立てがされると、特許庁の審判官によって審理がされ、取り消すか、登録を維持するかが決定されます。

 

この「登録異議申立て」は、申立手続をした後は特許庁で自動的に進行していきますので、申立人にはほとんど負担がかかりません。また、手数料も比較的安価です。これらの面で、攻撃をする側としては、後述する審判と比べてメリットがあります。

 

一方で、「異議が認められる可能性は低い」という実状があります。
登録の取消決定がされるのは、約1割くらいでしょう。
つまり、成功率はせいぜい10%くらいだということです。
まぁ、普通に考えて、特許庁が登録を認めてからすぐの時期に、「やっぱり審査は間違ってました」と認めたがらないのも、当然かもしれません(苦笑)。

 

攻撃する側としては成功率が低いため、異議申立てはあえて行わずに、次にご紹介する「無効審判」を請求するというケースも、実務上は少なくありません。

 

2.商標登録の無効審判

次に、「商標登録の無効審判」が挙げられます。

 

異議申立てと同様に、その商標が登録できない理由を有していたにもかかわらず登録されたような場合は、無効とすべき理由を指摘して、特許庁に審判を請求することができます。

 

無効審判が請求されると、特許庁の審判官によって審理がされますが、前述の異議申し立てとは異なり、裁判に準じたスタイルで進行します。すなわち、無効審判を請求した請求人と、請求された被請求人(=商標登録の保有者)の当事者のやりとりによるバトルとなります。

 

無効審判が請求されると、商標登録の保有者はいろいろと対応が必要となりますので、ある程度の時間・費用・労力の負担を負わざるをえません。最終的に勝っても負けても、それなりの面倒ごとに巻き込まれることになります

 

審理における一連のやり取りの結果、無効とするか、請求を棄却するかの審決が出されることになります。

 

なお、前述の異議申立てとは異なり、無効審判は利害関係人のみが請求できます。また、無効理由によっては、登録日から5年経った後は請求が認められませんので、注意が必要です。

 

3.不使用取消審判

続いて、「不使用取消審判」が挙げられます。

 

こちらは、異議申立てや無効審判とは少々性質の異なる攻撃手段となります。
不使用取消審判は、異議申立てと同じく、誰でも請求が可能です。

 

具体的には、日本国内で継続して3年以上、商標登録をした商標を一度も指定商品・指定役務に使っていなかった場合に、その指定商品・指定役務についての登録が取り消されるという内容の審判となります。

 

なお、自動的に取消となるわけではなく、第三者からの請求があった場合に限られます。つまり、本審判の請求は、特許庁に対象となる商標の不使用を指摘するイメージですね。

 

また、取消となるのは、請求のあった指定商品・指定役務だけであり、登録全体が取消となるわけではありません(ただし、全部の指定商品・指定役務が請求された場合は除く)。

 

不使用取消審判も、前述の無効審判と同様に、当事者のやりとりによる裁判に準じたスタイルで審理が進行します。

 

不使用取消審判を請求された商標登録の保有者は、その商標を実際に使っていることを、証拠を提出して証明する必要があります。証明できない場合、または、証明しても不十分とされた場合には、商標登録が取り消されます。

 

ちなみに、不使用取消審判が請求された場合、商標登録の保有者にかかる負担などは、争う場合と争わない場合で大きく変わります

 

まず、争う場合は、使用証拠の収集や提出が必要であり、はっきり言って非常に面倒です。ほとんどの場合、相手方は提出した使用証拠についてイチャモンをつけてきますので(苦笑)、答弁と弁駁のやりとりを繰り返すことになります。ですので、無効審判と同様に、最終的に勝っても負けても、それなりの負担がかかり疲弊します

 

一方、争わない場合は、何も対応する必要はありません。
ただし、何もしないと使用事実の証明はできませんので、審判では「負け確定」となります。しばらくすると、請求人の指摘する指定商品・指定役務については、登録の取消を認める審決がされることになります。

 

実際のところ、本当に必要な指定商品・指定役務について審判が請求された場合は、全力で争う必要がありますが、不要な(そこまでこだわりのない)指定商品・指定役務について審判が請求された場合は、無理に争わないケースが多いでしょう。

 

不使用取消審判が請求される件数は意外と多いのですが、そのほとんどが、争わずに取消となっているのが実状です。

 

攻撃する側としては、商標登録の保有者が争わない場合は確実に取消にできますので、不使用取消審判は使いやすい攻撃手段と言えるでしょう。

 

なお、「継続して3年以上、商標登録をした商標を使用していないこと」が条件ですので、少なくとも登録日から3年が経っていない場合はこの条件を満たさず、不使用取消審判を請求しても意味がありません。その点で、商標登録の保有者としては、登録から3年間は不使用取消審判が請求されることを心配する必要はありません

 

ただ、登録日から3年が過ぎると、グンとリスクが高くなると言えるでしょう。

 

他にも攻撃手段はありますが、主なものとしては以上の3つと言えると思います。
万が一のときに慌てないように、予備知識としてぜひ覚えておきましょう。

 

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