商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標登録をしていないのに「登録商標」だと偽ったらどうなる?

以前の記事でもお話ししたように、商標登録がされた商標のことを「登録商標」と言います。

 

自身の事業の商品名やサービス名などが「登録商標」であることをアピールすれば、一般的な顧客の間では、「へぇ~、すごい」とか「なんか、信用できそう」といった良い反応が期待できるのではないかと思われます。

 

登録商標」というだけで、その商標が「よりブランドらしく感じられる」というメリットもあるでしょう。

 

しかし、実際のところ、商標登録をするのは意外と大変です。
それなりの時間やお金もかかりますし、審査で一度引っかかれば余計に苦労します。
不服審判まで争った経験のある人なら、「もう商標登録はこりごりだ」と考える人がいても、おかしくありません。

 

できれば、面倒ごとにはかかわりたくない。
登録商標」には憧れつつも、相反する思いがあるということは少なくないかもしれません。

 

ところで、世の中には、いろいろな人間がいます。
事業者にもいろいろな事業者がいます。
中には、常識では考えられないことを平然とやらかす事業者もいます。
そのような事業者の中には、次のようなことを考える者がいるかもしれません。

 

そう、『商標登録をしていなくても、自分の使っている商標が「登録商標」だと書いておけば、顧客からの信用を簡単に得られるのではないか』と・・・。

 

「これくらいの嘘、もしバレてもたいしたことないだろう。」
という、安易な考えに基づく発想なのかもしれません。

 

しかし、これは「虚偽表示」として立派な「犯罪行為」になり得ます。

 

このような考え、行為は厳に慎むべきです。
絶対にやってはいけません!!

 

今回は、この点について少しご説明しましょう。

 

・虚偽表示は商標法によって禁止されている

まず、商標法には、商標登録表示等の虚偽表示を禁止する以下のような規定があります。

 

(虚偽表示の禁止)
第七十四条  何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 登録商標以外の商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

 

二 指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為

 

三 商品若しくはその商品の包装に登録商標以外の商標を付したもの、指定商品以外の商品若しくはその商品の包装に商品に係る登録商標を付したもの又は商品若しくはその商品の包装に役務に係る登録商標を付したものであつて、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付したものを譲渡又は引渡しのために所持する行為

 

四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標以外の商標を付したもの、指定役務以外の役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に役務に係る登録商標を付したもの又は役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に商品に係る登録商標を付したものであつて、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付したもの(次号において「役務に係る虚偽商標登録表示物」という。)を、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為

 

五 役務に係る虚偽商標登録表示物を、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為

 

おそらく、条文が長すぎて読む気がしないと思いますので(苦笑)、簡単にいうと、要は「商標登録をしていない商標に、商標登録表示や、これと紛らわしい表示を付してはいけないよ」(1号)ということです。

 

商標登録表示」というのは、具体的には「登録商標第〇〇〇〇〇〇号」という表示のことをいいます。「®」の表示をよく見かけると思いますが、これは日本では法律で定められたものではなく、あくまで慣習的に使われているものにすぎません。

 

これと紛らわしい表示」というのは、たとえば、「登録商標」とか「商標登録済」といった表示が考えられるでしょうか。上述の「®」については、昔は議論があったようですが、現在では「紛らわしい表示」に含まれると一般的には解されているようです。

 

要するに、実際には商標登録されていないにもかかわらず、その商標にあたかも登録商標だと思わせるような表示を付けてはいけないということです。

 

・虚偽表示は刑事罰の対象

そして、商標法では、次のように規定されています。

 

(虚偽表示の罪)
第八十条 第七十四条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

 

このような虚偽表示を行なった場合、刑事罰の対象になり得るということです。
3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」ですから、決して軽くはありません。

 

自分の商標に、たとえば、たった4文字の「登録商標」という文字を偽って付けただけで、これほどの刑事罰を受ける可能性があるわけです。商標登録というものが、いかに社会的に大きな意義を有し、「登録商標」という表示に、どれほど重みがあるかが理解できるでしょう。

 

なお、「指定商品又は指定役務以外の商品又は役務について登録商標の使用をする場合において、その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為」(2号)についても、同様に虚偽表示となる点については注意が必要です。

 

こちらは、たとえ本当に商標登録をしていたとしても、指定商品や指定役務以外の商品・役務に登録商標を使う場合に、「商標登録表示」や「これと紛らわしい表示」をしてはいけないと言っています。

 

たとえば、指定商品を「被服」として商標「A」を商標登録した場合、商品「洋服」に「登録商標 A」などと表示しても問題はありませんが、商品「ハンドバッグ」に「登録商標 A」などと表示すれば、虚偽表示になるということです。

 

これは、「A」については、たしかに商標登録を受けてはいるものの、指定商品に「ハンドバッグ」は含まれていないことから、商品「ハンドバッグ」について「A」を使用する場合、これは登録商標とは言えないからです。ですから、この場合に「登録商標 A」と表示すれば、虚偽表示となります。

 

このように、最初から偽っているような悪質なケースだけでなく、本当に商標登録をしている場合であっても、登録商標を使う対象によっては虚偽表示となるケースがあることには、要注意です。特に、ロゴマークの基本的なデザインに「®」を付けており、そのロゴマークを新商品や新サービスにも使い回しているような場合は、注意が必要でしょう。

 

商標登録をすると、心理的に「登録商標」とか「®」を付けたくなるものですが、くれぐれも慎重に・・・。


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