商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標関連のネットニュース記事とその影響

メディア、特にインターネット上のニュース記事では、たまに商標に関する話題が取り上げられることがあります。

 

商標の仕事をしている身としては、そのような話題が大きく取り上げられるのは嬉しくもあるのですが、実際の記事の内容を見てみると、がっかりすることが少なくありません

 

というのも、それらのほとんどが、「〇〇〇が特許庁に勝手に商標出願されている!」といったような内容で、読者に「けしからん!」という感情を抱かせ、炎上を煽るかのようなものになっていることが多いと、個人的に感じられるからです。

 

近年では、「PPAP」、「そだねー」、「アマビエ」、「ぴえん」、「ゆっくり茶番劇」などが、その中でも特に大きく話題(というか、騒ぎ)になった記憶があります。

 

たしかに、「他人のもの」や、「みんなのもの」と認識されるような文字や図形を商標登録して独占しようとする行為が非難されるのは、おかしいことではないでしょう。

 

なので、私ががっかりするのはそこではなく、その前提として、「予想以上に、一般の人たちに商標のことが理解されていない」と感じる点にあります。

 

わずかでも商標に関する知識があれば、ここまでの騒ぎにはならないだろうに・・・。
また商標ネタでネットメディアに踊らされている・・・。

 

そんな風に、残念に思うことが少なくないのです。

 

「騒ぎすぎ(大げさ)」と思われる話題も少なくない

たとえば、よくある「〇〇〇が特許庁に勝手に商標出願されている!」という話題も、「その商標がただ出願されているだけなのか」、それとも、「すでに審査をパスして商標登録を受けているのか」という違いで、ニュースとしての意義は大きく異なります。

 

前者の場合であれば、そのニュース記事は「騒ぎすぎ(大げさ)」です。
単に出願をするだけであれば、別にどんな商標でも自由にできるのが建前だからです。
それに問題があった場合は商標登録を認めないようにするために、その後、特許庁の審査があるわけです。

 

ネットで騒ぎとなる商標出願など氷山の一角のはずです。同じような問題がありそうな出願など、本気で探せばそれなりの量があると思います。そもそも、そんな商標ばかり出願している某有名人(?)だっているでしょう(苦笑)。

 

なので、審査前の商標のことをアレコレ言っても、あまり意味はありません心配しなくても、多くの場合は特許庁が審査で登録拒絶をするので、将来的な問題はまず起こりません。気になるようであれば、特許庁に情報提供をしておけば良いのです。

 

このように、商標登録についてちゃんと理解できていれば、少なくとも炎上や騒ぎになるほどのことではないと思います。ちなみに、たしか「PPAP」、「そだねー」、「アマビエ」、「ぴえん」のケースは、このパターンだったかと思います。

 

商標登録が完了している場合は?

一方、後者(すでに審査をパスして商標登録を受けている)の場合は、「商標権」が発生しているので、たしかに話題としては気にする必要があります。実際に、誰かが権利行使を受ける可能性があるからです。

 

「ゆっくり茶番劇」のケースは、このパターンだったかと思います。
なので、「ゆっくり茶番劇」と関係のあるYouTuberの人たちが心配をして騒ぎになるのも、無理もない話です。

 

とはいえ、きちんとした商標の知識があれば、そこまで慌てることはないという場合も少なくありません。

 

たとえば、実際に商標権による権利行使をされるとすれば、基本的には事業者(※ただし、個人のネット上での販売行為等に事業性が認められる場合はあります)が対象となりますから、「ゆっくり茶番劇」のケースでは、YouTuberには多少関係があっても、SNSなどでニュースについて言及をしている一般の人々の大半にとっては、まず影響のない話だと考えられます。

 

ちなみに、商標をよく知らない一般の人たちは、たとえば「そだねー」とか「ぴえん」が商標登録されると、日常生活でそれらの言葉を使えなくなるのではないかと心配するのかもしれませんが、そんなことはありません。商標登録は言葉の独占ではないのです。これも、基本的な商標の知識があれば、誤解せずに済むことです。

 

もっと大きな誤解をしている人たちは、それらの言葉を日常生活で使うと、JASRACのような管理団体がとんできて「使用料を払え!」と言ってくるのではないかと心配しているように見受けられますが、そのようなことは10000%ありません(笑)。

 

話題が大きく取り上げられるメリットもある

とはいえ、このようにネット上のニュース記事などで大きく話題になることが無意味かといえば、そうではありません。個人的には「しょうもない・・・」と思っても、それなりの効果はあります。

 

一つは、たとえ炎上を誘うような話題であっても、それを知った多くの事業者に「商標登録」などについて知ってもらう、意識してもらうきっかけとなる点です。

 

実際、ネットなどで大きく話題となった際には、当事務所のウェブサイトのアクセス数が急激に増えますし、商標登録などの相談や問い合わせも急増します。アクセス数が普段の数倍になっていて、驚くことも少なくありません。商標について知りたいと思う人が、増えているのでしょう。

 

というか、ある日突然、ウェブサイトのアクセス数が急激に増えていると、「あ、これはネットのニュース記事とかで、また何か商標の話題が出てるな・・・」と、逆に気付くこともあるくらいです(笑)。

 

まぁ、時間が経つにつれて元に戻っていきますので、あくまで一時的なものではありますが・・・。

 

それでも、「商標」とか「商標登録」に興味を持ってもらうきっかけになるという面では、こういったネット上のニュース記事なども、役に立っていると言わざるをえません。まぁ、欲を言えば、どうせなら、もう少し正統派な(?)内容の記事で啓蒙して欲しいという思いが個人的にはありますが・・・。

 

もう一つは、特許庁の審査に与える影響です。

 

先ほど、単に出願がされているだけで、審査前の商標にアレコレ言ってもあまり意味はないとは述べたものの、大きく騒がれれば、当然に特許庁もそれを把握することになります。そうすると、その商標については、今後、より慎重に審査がされることが予想されますし、登録拒絶の方向で判断される可能性は高まるものと思われます。

 

つまり、特許庁の審査にプレッシャーをかけるという点においては、こういったネット上のニュース記事やSNSなどでの騒ぎも、役に立っていると言えると思います。実際、炎上などで大きく騒がれると、特許庁が世論とは逆の結論を下すケースはまず見かけない気がします。

 

そんな感じで、商標関連のネットニュース記事とその影響の関係については、商標弁理士としては、いつも複雑な心境だったりします(苦笑)。

 

参考リンク

なお、当事務所のウェブサイトでも、本記事に関連する以下のコラムを掲載しております。もしよろしければ、ご参照ください。

 

皆様、くれぐれもネットニュースの商標ネタには踊らされないように・・・。

 

商標関連ニュースで誤解しないために①

 

商標関連ニュースで誤解しないために②

 

続・商標関連ニュースで誤解しないために

 

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