商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

【商標登録】「会社」等の文字を含む商標の場合の注意点

以前の記事では、「会社名の商標登録」について少しお話をしました。

 

astermarks.hatenablog.com

 

こちらの記事では、たとえば「株式会社〇〇〇」の「〇〇〇」の部分を商標として使うケースについて主に述べましたが、「株式会社〇〇〇」自体を商標登録したいと考える場合もあるかもしれません。

 

しかしながら、「株式会社〇〇〇」自体を商標登録しようとする場合には、予め注意しておくべき特有の点がいくつかあります

 

今回は、これらの注意点の一部について、少しお話をしてみたいと思います。

 

・出願人の名義が自然人(個人名義)である場合

出願人の名義が自然人である場合、つまり、個人名義で「株式会社〇〇〇」といった商標を出願した場合には、公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号に該当)を理由として、登録が拒絶されることになるため、注意が必要です。

 

この点は、「商標審査便覧」の「42.107.36」に書かれています。

具体的には、以下のような記載があります。
※読みやすくなるように、筆者が改行等を入れています。

 

42.107.36
 「会社」等の文字を有する商標の取扱い


出願商標に含まれる文字について、他の法律によって当該名称の使用等が禁止されている場合は、商第4条第1項第7号に該当するものとされているところ、「会社」等の文字を有する商標は、会社法によって使用の制限があることから、以下のとおり取り扱うこととする。

1.「会社」等の文字を有し、商号を認識させる場合
(1) 出願人が自然人であるとき
 会社法第7条は、「会社でない者はその名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない」としている。

 また、会社法第6条によれば、会社はその名称を商号とし、商号中に、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならないと規定されていることから、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社及び株式会社を認識させる表記として一般的に用いられている「(株)」の文字を含む場合に、商号を認識させることとする。

 よって、自然人が、「株式会社」、「合名会社」、「合資会社」、「合同会社」、「(株)」の文字を含む商標を出願した場合には、商第4条第1項第7号に該当するものと判断する。

 

 

「株式会社」だけでなく、「合同会社」とか、略称の「(株)」を含む商標の場合も、同様の取扱いがされると言っています。

 

なお、このような拒絶理由通知が来た場合でも、この場合、出願人の名義を「株式会社〇〇〇」に変更して合致させれば、拒絶理由を解消することができます。

 

・出願人の名義が異なる会社名である場合

また、出願人の名義が、商標に表した会社名とは異なる会社名である場合も、同様に公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号に該当)を理由として、登録が拒絶されることになるため、注意が必要です。

 

たとえば、「△△△株式会社」が、その名義で「株式会社〇〇〇」を商標出願した場合などが該当するでしょう。この点についても、上述の「商標審査便覧」に、以下のように記載されています。

 

(2) 出願人が当該商標が表す法人以外の法人であるとき
会社法第6条第1項は、会社はその名称を商号としなければならないと規定する。


よって、自己の商号と異なる商号を自己の商標として採択・使用することは、商取引の秩序を混乱させるおそれがあることから、商第4条第1項第7号に該当するものと判断する。

 

つまり、商標に表した会社名と、出願人名義とする会社名は、基本的に一致させなければならないということになります。なお、このような拒絶理由通知が来た場合でも、出願人の名義を商標に表した会社名に変更して合致させれば、拒絶理由を解消することができます。

 

・「弁理士法人」の場合も適用アリ

以上の審査運用は、「弁理士法人」の場合にも同様の適用がされるようです。

 

令和3年度弁理士法改正により、これまでの「特許業務法人」は、「弁理士法人」に名称変更をしなければならなくなりました。また、弁理士一人でも、「弁理士法人」を設立できるようになりました。そこで、それらに先がけて、新しい法人名たる事務所名(たとえば、「弁理士法人〇〇〇」)を商標登録しようとした弁理士も少なくなかったようです。

 

ただ、この際、出願人の名義を、弁理士個人や従来の「特許業務法人」のままでしたために、上述の公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号に該当)の拒絶理由通知が来てしまったという例も、結構あったようです

 

まぁ、弁理士法人の設立前・名称変更前に出願をするには、弁理士個人や従来の「特許業務法人」の名義にするしかありませんので、ある意味しかたがないのですが、意外な拒絶理由通知が来て少々焦ったという方も、中にはおられたのではないかと予想されます。

 

・同じ名称の他人の会社がすでに存在している場合

同じ名称の他人の会社がすでに存在している場合は、商標法第4条1項8号の規定により、原則として商標登録はできませんので、注意が必要です。

 

商標法第4条1項8号では、以下のように規定されています。

 

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。


・・・
八 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
・・・

 

「若しくは」がごちゃごちゃしていて、わかりにくいですが(苦笑)、
ここでいう他人の「名称」とは、法人名を意味します。
よって、同じ名称の他人の会社がすでに存在している場合、その会社名を商標登録しようとしても、基本的にはできないということになります。

 

なお、最後の括弧書きに「その他人の承諾を得ているものを除く」とあるように、その他人から承諾を得ることができれば商標登録は認められますが、現実問題として難しいでしょう。自社と同じ名称を他社が商標登録しようとするのを、普通は容認できないはずです(苦笑)。

 

全国規模で見れば、同じ名称の会社というのは、意外と存在するものです。
この規定があることによって、「株式会社〇〇〇」のような会社名自体の商標登録は、一般的にかなり難しいというのが実際のところと言えます。

 

なお、上記の条文を読み解くと、「他人の名称の著名な略称」を含む場合も同様にダメだと言っています。すなわち、たとえば、「株式会社〇〇〇」ではなく「〇〇〇」の部分の商標登録をしようとした場合でも、この「〇〇〇」がすでに「他人の名称の著名な略称」となっている場合には、商標登録は受けられないということになります。

 

というわけで、「会社名の商標登録」を考えた際には、「株式会社〇〇〇」という会社名自体の場合も、「〇〇〇」の部分だけの場合も、インターネットを検索するなどして、事前に同じ名称の会社が存在していないかや、すでに他社の著名な略称になっていないか等をチェックすることが大切と言えるでしょう。

 

以上、今回は、「株式会社〇〇〇」といった会社名自体を商標登録しようと考えた場合の注意点についてお話いたしました。ご参考になれば幸いです。

 

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