少し前に、商標のことを全然知らない知人から、
『「スマイルＵＰ！」のCMを見たんだけど、あれって大丈夫なの？』
という話をされました。
唐突な質問で少々面食らいましたが（苦笑）、何が言いたいのかすぐにわかりました。
今年の10月に、かの有名なジャニーズ事務所の名称が、「スマイルアップ」に変わったのはご存知のとおりです。（正確には、「株式会社SMILE-UP.」への変更ですが、ホームページ等では「SMILE-UP.」のロゴも使っている模様。）
ニュースなどの報道で大きく取り上げられたためか、またたく間に「スマイルアップ」は我が国で周知されたと思われます。多くの方は、「スマイルアップ」と聞くと、旧ジャニーズ事務所を思い浮かべるのが現状ではないでしょうか。
一方で、最近私もテレビで、「スマイルＵＰ！」という商品名のハムのCMを見かけました。どうやら、プリマハムの商品のCMのようです。
で、おそらくその知人が気になったのは、『旧ジャニーズ事務所以外が「スマイルＵＰ！」を使っても問題にならないのか？』という点だろうと察しました。
今回の記事では、この疑問に関して、商標登録の観点からお話してみたいと思います。
・「スマイルＵＰ！」はプリマハムの登録商標
結論から言うと、少なくとも商標制度の観点からは、このプリマハムによる「スマイルＵＰ！」の使用はまったく問題はありません。
なぜなら、プリマハムは「肉製品」を指定商品として、すでに「スマイルＵＰ！」を商標登録している（登録6747197号）からです。
すなわち、プリマハムは、この商標権に基づき、商標「スマイルＵＰ！」を商品「ハム」について独占的に使うことが認められます。なお、商品の広告に使うことも、基本的には商標の「使用」となります。
ちなみに、この「スマイルＵＰ！」は2023年6月15日に特許庁に出願されています。
おそらく、この頃はまだジャニーズ事務所の「スマイルアップ」の話は本格的に出ていなかったと思いますので、「偶然」名称がカブっただけと考えられます。よって、プリマハムに対して「パクリだ！」とか「便乗だ！」などと非難をするのはまったくの筋違いですので、注意してください。（ちなみに、ハムの方をよく知っている人たちにとっては、逆の感覚になるかもしれませんが、ここでは触れないことにします。）
・実はたくさんある「スマイルアップ」関連の他社の商標登録
実は、このプリマハムの「スマイルＵＰ！」の他にも、「スマイルアップ」と同視できる商標はたくさん商標登録されています。
たとえば、株式会社明治の「スマイルＵＰ」（登録4810222号）と「ＳＭＩＬＥ ＵＰ」（登録6682469号）、花王株式会社の「スマイルアップ＼ＳＭＩＬＥ ＵＰ」（登録5437050号）、大建工業株式会社の「スマイルアップ」（登録5639075号）、社会福祉法人近代老人福祉協会の「スマイルアップ（ロゴ付き）」（登録6621215号）などがあります。
よく誤解がありますが、商標登録は言葉を独占するものではありません。
あくまで、商品やサービスについて、商標の使用を独占できるものです。
また、商標登録をしたからといって、世の中のありとあらゆる商品・サービスについて、無制限に商標の使用を独占できるわけでもありません。あくまで、願書（出願書類）で指定した商品・サービスの範囲内で、その商標の使用を独占できるにすぎません。
ですから、商品・サービスの範囲がカブらないのであれば、商標登録がされている商標と同じ商標・似ている商標を使っても、原則として商標権の侵害にはならないのです。
商標登録をする場合も同様で、商品・サービスの範囲がカブらないのであれば、先に登録がされている商標と同じ商標・似ている商標を出願しても、商標登録ができる可能性があります。（※商標登録されている商標が有名になっている場合は、商品・サービスの範囲がカブっていなくても登録が認められない場合もあります。）
つまり、ここで挙げた複数の登録商標は、似ている商標と言えるものの、それぞれ商品・サービスの範囲がカブっていないことから、併存して商標登録が認められているというわけです。
・現時点で心配なのはむしろ旧ジャニーズ事務所
現在の商標登録状況を見ると、個人的に心配なのはむしろ、旧ジャニーズ事務所の「SMILE-UP.」の方かもしれません。
旧ジャニーズ事務所は、2018年に「Ｓｍｉｌｅ Ｕｐ ！ Ｐｒｏｊｅｃｔ」については商標登録をしている（登録6188879号）ものの、現時点で「SMILE-UP.」等の登録は見当たりません。
2023年10月2日に、「株式会社Ｓｍｉｌｅ―Ｕｐ．」と「Ｓｍｉｌｅ―Ｕｐ．」を出願していますが、現在はまだ特許庁の審査待ちの状態です。つまり、商標登録による「SMILE-UP.」自体の使用の安全性は確保できていない状況です。
まぁ、そのあたりは念入りに商標調査で確認してうまくやっているのだろうとは思われますが、上述のように多数の「スマイルアップ」関連の他社の登録商標がすでにありますので、当面の間は「SMILE-UP.」の使用に慎重にならざるを得ないのではないかと推測されます。
今後、大きなトラブルなく、所属タレントさんの活動やグッズ販売などがスムーズに行えることを祈る次第です。
というわけで、今回は「スマイルＵＰ！」のハムのCMを見た知人の疑問に関連して、商標登録についてお話しました。
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