商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標権の侵害、相談先は「弁護士」か「弁理士」か?

商標権の侵害に関するトラブルは、ある日突然起こるのが普通です。

 

自分が商標権を侵害される側であれば、まだ少し落ち着いた行動ができるかもしれません。一方で、自分が侵害している側の場合は、相手方からの警告書などが届いて、頭が真っ白になって慌ててしまうかもしれません。

 

いずれの場合も、まずは冷静になって、専門家に相談することが強くお勧めされます。
焦りから、感情に任せて行動することは控えるべきです。

 

と、「商標権の侵害」については、このようなことを言っているウェブサイトの記事や書籍などが多いのではないかと思われます。しかし、そもそも、「専門家に相談せよ」と言われても、一般的な事業者からすれば、「誰に相談していいのかわからないよ!」となるのが、実際のところではないでしょうか。

 

そこでまず、覚えておいていただきたいのは、商標権の侵害に関するトラブルに遭遇した場合、この分野での専門家は「弁護士」と「弁理士」になるという点です。

 

では、「弁護士」と「弁理士」のどちらに相談をすれば良いのか?
「弁護士」と「弁理士」で、何がどう違うのか?

 

今回の記事では、この点について少し述べてみたいと思います。

 

最初の相談先としては「弁理士」がオススメ

まず、最初の相談先としては、「弁理士」にコンタクトを取ることをお勧めします。
弁理士は、主に「特許事務所」や「弁理士法人」で働いています。
これは別に、私自身が弁理士だからというわけではなく、ちゃんとした理由があります。

 

商標権の侵害に関するトラブルに遭遇した場合、解決のためにすべきこととしては、「検討・判断」と「対応」のフェーズに、大きく分けられると考えられます。

 

侵害をしてしまった場合、侵害をされた場合のいずれにおいても、まずは、「本当に商標権の侵害になるのか?」という点を検討することが重要です。

 

商標権の侵害となるには、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・役務について使用することが要件となるところ、本当にこれらを満たしているかを判断するのは、意外と簡単ではありません。特に、「商標が似ているかどうか」という点については、個人の主観や印象で決まるものではありませんので、一般の方々にとっては判断が非常に難しいと言えます。

 

また、この他にも、「商標として使用しているか?」、「商標権の効力が制限されるケースに該当しないか」、「商標権に穴(無効理由・取消理由)がないか?」などといった点についても、詳細を検討した上で、侵害の成否を判断していく必要があります。そして、その結果によって、今後の対応方法(戦略)が変わってくることも少なくありません。

 

このような「検討・判断」については、我々弁理士の専門領域といえます。
弁理士は、商標実務のプロフェッショナルだからです。

 

もちろん、弁護士であっても、弁理士と同等の知識や経験を有している方はいます。
中には、弁理士以上の方もいることでしょう(実際、すごい人もおられます。)。
しかし、割合でいえば、そのような弁護士は「僅か」だと考えられます。

 

一方、一般的なルートで弁理士になった者は、弁理士試験に合格するために、「商標法」などの知識はこれでもかというくらい叩き込まれています。きちんと勉強していないと、合格することは不可能です。なので、少なくとも、商標に関する基本的な知識のない弁理士などいないでしょう。

 

つまり、弁護士の場合は、商標実務に詳しい人もいる一方で、まったく経験のない人も多いと考えられ、最初の相談先としては「当たりはずれ」が大きいと言わざるを得ません。この点、弁理士の場合は、少なくとも最低限の専門知識があると考えられますので、相談先として一定基準のレベルは保証されます。

 

そう考えると、やはり「検討・判断」のための最初の相談先としては、「弁理士」の方が適任ではないかと考える次第です。

 

なお、ついでに言うと、一般的に、弁理士の中でも専門分野や得意分野というものはあります。商標権の侵害に関するトラブルであれば、当然に、商標分野を専門としている弁理士に相談する方が、より理想的と言えるのではないかと個人的には思います。

 

実際の対応は「弁護士」に依頼を

「検討・判断」の結果、トラブルを解決するための「対応」が必要となります。
具体的には、警告書や回答書を作成・送付したり、相手方と交渉したりすることになります。

 

このフェーズからは、「弁護士」に依頼すべきでしょう。

 

その理由はいくつかありますが、やはり相手方との駆け引きを含め、法律的な文書のやりとりや交渉は、弁理士よりも弁護士の方が圧倒的に慣れているという点が大きいです。

 

また、不幸にも相手方との話がまとまらず、後に侵害訴訟(裁判)となってしまった場合、訴訟代理人になれるのは弁護士だけです。弁理士も所定の資格があれば侵害訴訟の代理人になれるケースはありますが、あくまで弁護士との共同であることが条件となります。

 

そうであれば、「後々の場合のやりやすさ」なども考えた場合、相手方への「対応」については、最初から「弁護士」に任せた方が、スムーズかつ理想的なのではないかと考えられます。

 

なお、そもそも、これらの警告や交渉などの「対応」を弁理士が単独で行なうことは「非弁行為」となり、弁護士法違反になるのではないかという話(指摘)が、昔からあります

 

「対応」といっても様々なパターン・内容があるでしょうから、これが一律的に非弁行為になるかについては議論があるところだとは思います。ただ、この点を厳格に踏まえた場合には、そもそも「対応」については「弁護士しかできない」という考え方もあるでしょう。

 

ベストなのは「弁理士」と「弁護士」による連携・協働!

以上のように、商標権の侵害に関するトラブルに遭遇した場合、「検討・判断」のための最初の相談先としては「弁理士」、その結果に基づいた「対応」については「弁護士」に依頼することをお勧めいたしました。

 

しかし、これらのフェーズごとに、わざわざ相談先・依頼先を探して、イチから状況を説明するのも大変なことだと思います。先に相談した弁理士と、後に依頼した弁護士の見解や考え方がバラバラになった場合などは、どうすればよいのか対応に困るというケースも十分にあり得る話です。

 

そこで、やはりベストなのは、「弁理士」と「弁護士」が連携・協働している事務所などに相談をすることだと考えます。

 

この場合、弁護士と弁理士の両方が在籍している法律事務所や特許法律事務所(法律特許事務所)でも良いですし、弁護士のいる法律事務所と提携している特許事務所や弁理士法人でも良いでしょう。何らかの形で、連携・協働の体制ができていれば、比較的スムーズかと思われます。

 

まぁ、前者の場合は、いわゆる「大事務所」とか「大手事務所」と言われるような規模の事務所でなければ、なかなか探すのは難しいかもしれませんね。小規模で事業をしている方々には、(費用的にも)少々敷居が高くなってしまうかもしれません。

 

ですので、現実的な手段としては、まずは上述のように、最初の相談先として弁理士にコンタクトを取った際に、相談後、追って対応を依頼したい場合はどのようになるのかについて、事前にしっかり聞いておくというのが良いのではないかと思います。(良心的な弁理士であれば、聞かなくても説明してくれると思いますが。)

 

というわけで、商標権の侵害に関するトラブルの解決については、誰に、どのように相談・依頼するかによって、その経緯や結末に影響する可能性も考えられます。この点も含めて、落ち着いた行動や冷静な判断が望まれるところです。

 

以上、ご参考になれば幸いです。

 

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