商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

商標関連の書籍を愉しむ ~初学者向け目的別のヒント~

何かを学ぼうと思った時、とりあえず本屋さんに行ってみるという方は多いのではないでしょうか。

 

商標登録や商標制度について知りたい、勉強してみたいと思った場合も、商標関連の書籍をまず探してみるというのは、よくあることかもしれません。

 

ただ、専門分野としてマイナーすぎるせいか(苦笑)、一般的な街の書店では1冊も置いていないということも珍しくないでしょう。商標関連の書籍を入手するには、専門書も豊富に取り扱っている、それなりの規模の書店(都心に多い)に足を運ぶ必要があります。

 

一方で、大きい書店に行ったら行ったで、今度は種類が豊富で、逆にどれを選んだら良いのかわからないという状況にもなりかねません。特に、初学者の方の場合は、それらの本をパラパラめくってみても、違いがよくわからないのが普通ではないでしょうか。

 

そういったことが理由でイヤになってしまい、商標について学ぼうとするせっかくの機会を諦めてしまうのは、非常にもったいないことだと思います。

 

そこで今回は、「商標関連の書籍にはどのようなものがあるのか」について筆者独自の分類をした上で、目的別に合った選び方のヒントについて、少し述べてみたいと思います。

 

「著者の属性」で分類するとわかりやすい

「商標について勉強してみたい」と思い立ったのには、何らかの理由があるかと思います。おそらく、個人的な知識欲とか趣味でという理由よりは、仕事などで「必要に迫られて」というケースが多いのではないでしょうか。

 

そうであれば、勉強すること自体に、何らかの「目的」があるのではないかと思います。

 

この「目的」に着目した場合、商標関連の書籍は、「著者の属性」で分類してみると、選びやすくなるのではないかと思います。と言うのも、商標関連の書籍の著者には様々な肩書きの人がいて、それぞれ専門や強みとするところが異なっていたりもするからです。

 

あくまで筆者独自の分類となりますが、商標関連の書籍の「著者の属性」は、ざっくりと以下のように分けられるかと思います。

 

1.弁理士
2.弁護士
3.学者(教授など)
4.1~3の複数の肩書き持ち
5.1~3による共著
6.特許庁や関連機関
7.その他

 

つまり、同じ「商標」に関することを本に書くにしても、それぞれの著者に得意とする分野があると考えられますので、どんな人が書いているかによって、内容が充実している部分が異なる傾向があるであろうと考えられます

 

ですから、「著者の属性」をあらかじめチェックすることで、自分の「目的」に合った、自分が求めている内容が充実している書籍に出合える可能性は高まるのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

 

では、「著者の属性」ごとに考えられる、書籍の具体的な特徴を見てみましょう。
※以下はあくまで筆者独自の見解によるものである点、予めご了承ください。

 

1.弁理士

弁理士は、商標実務のプロフェッショナルです。
特に、商標登録、商標が似ているかどうかの類否判断、商標調査、各種審判(審決)などのことについては、もっとも詳しいと言って良いでしょう。もちろん、特許庁に対する各種手続についても、普段からやっていますので得意とするところです。

 

よって、弁理士が書いている本というのは、商標登録など、特許庁関連の商標実務に関する内容が充実しやすい傾向にあると考えられます。

 

2.弁護士

弁護士法により、弁護士も弁理士の業務を行うことができます。
しかし、弁理士のように商標登録出願の代理人として、特許庁関連の商標実務に普段から携わっている弁護士というのは、あまりいないと思われます。

 

弁護士が活躍するのは、やはり商標に関する訴訟や交渉の場ということが多いでしょう。特に大きくかかわってくるのが、「商標権侵害訴訟」ということになろうかと思います。訴訟の前段階として、相手方に警告書を送付したりする機会も多いはずです。
また、業務遂行上、裁判例についても詳しいことが期待できます。

 

よって、弁護士が書いている本と言うのは、商標権侵害訴訟などの訴訟実務や裁判例に関する内容が充実しやすい傾向にあると考えられます。

 

3.学者(教授など)

学者は、学問の研究や教授を主な仕事としています。
商標に関する分野であれば、その主な対象は「商標法」などの法律であったり、裁判例であったりするでしょう。

 

よって、学者(教授など)が書いている本と言うのは、商標法や裁判例に関する内容が充実しやすい傾向にあると考えられます。

 

4.1~3の複数の肩書き持ち

弁理士や弁護士であって、さらに学者でもある人。
弁護士であって、弁理士でもある人(またはその逆)。

 

著者の中には、こういった肩書きを持った方もおられます。
ものすごい才能をお持ちで、羨ましい限りですね。

 

こういった方が書いている本の場合は、上述した1~3の複数の点が充実していることもあるでしょうから、全体的な内容の充実度に期待できると言えそうです。

 

一方、著者が「いろいろやってはいるが、広く浅く」という人の場合は、「どっちつかず」で薄っぺらい内容になってしまう懸念もあるかもしれません。このあたりの判断は、なかなか難しいものがあるように思います。

 

5.1~3による共著

弁理士、弁護士、学者、やはりそれぞれ特に専門とする分野や強みがありますので、これらの人たちが協力して、共著という形で本が作られることも少なくありません。

 

コンメンタール」とか「法律相談」系など、比較的スケールの大きい書籍に多い気がしますが、各々が得意なところを書いていますので、内容の充実度のバランスの良さには大いに期待ができると言えるでしょう。商標全般についてしっかり勉強したい場合は、もっとも理想的なスタイルではないかと個人的には思います。

 

一方で、「共著」の形となると、編集者の意向が多少は入るため、著者による独自の見解や考え方などは書きにくく、どうしても差し障りがない内容になってしまう傾向がある点は否めないでしょう。

 

6.特許庁や関連機関

最近は、あまり見られなくなった気がしますが、特許庁や関連機関が、実質的な著者という場合もあります。

 

内容については様々ですが、いずれにしても、いわば「公式見解」のようなものですので、書籍の内容の信ぴょう性という点ではピカイチだと思います。

 

また、「入門書」のようなタイプの本も多いので、初めて商標を勉強するという方にとっては、選びやすい本が比較的多いのではないかと思います。

 

あまり分厚くなく、価格も比較的安いというのも良い点でしょう。
特許庁のウェブサイトからPDFを無料ダウンロードできる場合もあります。

 

7.その他

その他、数としては多くないものの、弁理士ではないが商標実務に詳しい方(たとえば、企業の知財部社員、知的財産関連団体の社員)が著者というケースもあります。

 

自分の目的に適した書籍を選ぶために

以上、あくまで筆者独自の分類となりますが、商標関連の書籍の「著者の属性」、そして各々の書籍で考えられる特徴を見てきました。あくまで筆者独自の見解ではありますが、概ね間違ってはいないのではないかと思っています。

 

自身の「目的」に合った書籍を探したい場合、これらを意識していれば、よりピッタリな本に出合える可能性は高まるのではないかと考えます。

 

たとえば、これから商標登録を考えていて、商標について勉強がしたいなら、「1.弁理士」や「6.特許庁や専門機関」によって書かれたものが良いのではないでしょうか。一方、自分の会社が商標権侵害のトラブルに巻き込まれてしまい、対応のために関連知識を勉強したいなら、「2.弁護士」によって書かれたものが第一候補として挙がるでしょう。

 

そして、さらに深く、詳しく勉強したいということになれば、「3.学者(教授など)」や「5.1~3による共著」によるもの等を適宜追加していくと良いと思います。

 

「著者の属性」がわかれば、ある程度内容の充実度の予測ができるという点で、近くに大きな書店がなくてネット通販で購入せざるを得ない場合でも、選択する際のヒントになるのではないでしょうか。

 

なお、いずれにしても、やはり最初の段階では、分厚くて難解な本は避けた方が無難かと思います。理解できない点も多いでしょうし、大事なポイントもわかりにくいからです。商標の勉強に限りませんが、まずは入門書のようなものから入り、徐々に難しい本にチャレンジしていくというのが、定石でしょう。

 

以上、ご参考になれば幸いです。

 

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