我々弁理士にとっては「当たり前」のことでも、依頼人や相談者にとってはそうではないということは、少なくないように思います。
もちろん、弁理士には依頼人に対する十分な説明義務がありますから、そのようなことでも、地道で丁寧な説明を心掛ける必要があります。
ただ、あまりに「当たり前」すぎるために盲点となっているのか、そう心掛けていたとしても、忘れがち・説明不足になりがちな点というのも、実際にはあるように感じます。
今回は、商標登録に関することで、「多くの弁理士が、意外と説明不足になりがちなのではないか」と当職が思う点を、いくつか述べてみたいと思います。
1.日本でした商標登録は、日本国内でのみ有効
日本の特許庁に出願をして、商標登録が認められた場合、それによって生じる商標権の効力は日本国内でのみ有効です。つまり、商標登録によって商標が保護されるのは、日本国内に限られます。
日本国内であれば全国OKですが、外国には及びません。
よって、中国とか韓国とかアメリカなどでもその商標を保護したい場合は、それらの他国においても、あらためて商標登録をする必要があります。
専門的には、「属地主義の原則」と言ったりします。
我々弁理士にとっては「当たり前」すぎる前提なのですが、非常に重要な事項です。この点を依頼人にきちんと説明しておかないと、「日本で商標登録をしておけば、外国でも保護されると思っていた!」なんてことにもなりかねません。
あきらかに日本国内でしか事業を行なわない依頼人であれば特段の問題はないかもしれませんが、グローバルな商品展開を行なう依頼人に対しては、誤解を生じさせないように注意しなければなりません。
なお、いわば「国ごとに商標登録がある」という状況ですので、日本で商標登録ができた商標でも他国ではできない可能性はありますし、まったく同じ商標を他国では誰かがすでに商標登録をしているという可能性も考えられます。
よって、日本の場合と同様、外国でも事前の商標調査が非常に重要になります。
2.「審査待ち期間」は、結構長い
商標登録の出願をすると、特許庁で「審査」がされることになります。
そして、審査にパスすることを条件に、商標登録は認められます。
この点は、ほぼ100%の方が事前に理解されていると言っても過言ではありません。
一方で、出願をするとすぐに審査がされて、パパッと登録の可否の結果が出ると思っている方が意外とおられるようです。
しかし、実際にはすぐに審査に着手されるわけではなく、「審査待ち期間」があります。わかりやすく言うと、「審査の順番待ち」ですね。特許庁には、毎日400とか500件の商標登録の出願がされていますので、日々ストックが増え、審査官も処理が大変なのです。
この「審査待ち期間」は通常、数か月に及びます。
現在は、平均して約5~7か月といったところでしょうか。
なお、審査状況については、特許庁の「商標審査着手状況(審査未着手案件)」のページで、概ねスケジュールを確認することができます。
※リンク先は、「新しいタブで開く」などで開いてください。
ですから、審査結果が出るまでには、半年くらいは見ておいた方が無難です。
「そんなに時間がかかるの!?」と思う方も少なくないかもしれませんが、昔に比べればずいぶん早くなっています。特許庁としては、非常に頑張ってくれていると個人的には思います。
これらの点、我々弁理士にとっては「当たり前」の前提なのですが、初めて知る依頼人にとっては驚きかもしれません。場合によっては、「そんなに時間がかかるのは困る!」という事態になることもあるでしょう。
商標登録の出願後に、意外と長い「審査待ち期間」があることを弁理士が依頼人に説明しないということは通常ありえませんが、その説明のタイミングには注意する必要があるでしょう。出願手続間近や出願完了後にいきなり説明をするのではなく、相談を受けた早い段階で、しっかりと説明をして理解を得ておくべきです。
3.「商標調査」を実施するのは、特許庁ではない
商標登録を検討する際に、その商標の登録可能性や使用可能性を、事前に知りたいと思うのは当然のことでしょう。
その場合、我々弁理士は「商標調査」を相談者にお勧めするのが普通です。
弁理士は、商標調査ではどのようなことを調べて、どのようなことがわかるのかを説明することになります。ただ、ここで「誰が商標調査を実施するのか」という点については、意外とあまり明確に説明されていないのではないかという印象があります。
我々弁理士にとっては、商標調査を実施するのは自分(または同僚とか外部委託業者)というのが「当たり前」の前提なのですが、もしかすると依頼人の方は、特許庁とか専門調査機関が調査を実施してくれるものと思っているかもしれません。
特に、特許庁が商標調査を実施すると誤解した場合、依頼人としては調査結果通りの審査結果が出るものと期待するでしょうから、実際の結果が大きく異なると、後から弁理士との間でトラブルにもなりかねません。
商標調査を実施するのは、あくまで弁理士等であって、その調査結果は、あくまで審査結果を予測するものにすぎないことを、依頼人には事前に十分に説明しておく必要があるでしょう。
なお、以前にこのブログで「「商標調査」は誰がやっているのか?」という記事も書いておりますので、よろしければご覧ください。
とりあえず、ざっと思い付くのはこんなところでしょうか。
また何か気付きましたら、追加で書く機会があればと思います。
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