商標を愉しむ 或る弁理士の銘肌鏤骨ブログ

商標ブログ、こっそり始めました。商標弁理士の永露祥生によるブログです。

20年前の商標登録費用、ご存知ですか?

商標登録にかかる費用は、安いか、高いか。

 

いつの時代でも、話題になる点ではないかと思います。

 

商標登録によって得られる「商標権」には、形がありません。
手元にあるのは、せいぜい「商標登録証」の用紙くらいです。
ですから、その価値を測るのは、たしかに難しいことかもしれません。

 

昨年(2022年)4月には、特許庁料金の改定により、商標登録料、更新登録料などが「値上げ」されました。この値上げによって、「商標登録にかかる費用も高くなったなぁ・・・」と嘆いている方もおられるかもしれません。

 

しかし、昔から地道に商標登録に関わってきた事業者からすると、

 

寝言は寝て言え!

 

と言いたくなるかもしれません(笑)。
なぜなら、

 

昔は手数料がかなり高かった

 

からです。

 

一般的に、世の中の商品やサービスの料金というのは、今より昔の方が断然安いというイメージかもしれません。ちなみに、私が子供の頃に流行った「ビックリマンチョコ」は、当時は1個30円でしたが、今では100円近くします。

 

しかし、商標登録をするために必要な費用、すなわち、特許庁に支払う手数料については、

 

今の方が断然安い

 

と言えるのです。
この点、意外に感じた方も少なくないのではないでしょうか。
最近登録した弁理士は、おそらく知らなかった方も多いのではないかと思います。

 

というわけで、今回は、20年前に必要だった商標登録費用がどれくらいだったのかを、具体的に見ていきたいと思います。

 

・現在、商標登録に必要となる費用は?

20年前の料金体系を見る前にまず、現在の料金体系を見てみましょう。

 

現在、商標登録をするために必要となる費用は以下のとおりです。
なお、参考のため、更新登録料も掲載します。
※注:弁理士に依頼する場合の手数料等は含まれません。

 

出願料:   3,400円+(区分数×8,600円)
登録料:   区分数×32,900円 ※10年分一括

 

(参考)
更新登録料: 区分数×43,600円

 

今、商標登録をしようとする場合、最低(1区分)でも、44,900円が必要ということになります。なお、登録料を分納する場合は、とりあえずの登録完了までにかかる最低限の費用としては、29,200円ということになります。

 

昨年、登録料が28,200円から32,900円に値上げされて、ずいぶん高くなったようなイメージがあるかもしれません。ですが、そうは言っても10年分で32,900円ですから、1年分にすると3,290円です。1か月分にすると、わずか約274円にすぎません。

 

めちゃくちゃ安いと思うのは、私だけでしょうか(笑)。

 

・20年前、商標登録に必要だった費用は?

では、今から20年前はどのような料金体系だったのでしょうか。

 

20年前、商標登録をするために必要だった費用は以下のとおりです。
なお、参考のため、更新登録料も掲載します。
※注:弁理士に依頼する場合の手数料等は含まれません。

 

出願料:   6,000円+(区分数×15,000円)
登録料:   区分数×66,000円 ※10年分一括

 

(参考)
更新登録料: 区分数×151,000円

 

20年前は、商標登録をしようとする場合、最低(1区分)でも、87,000円が必要だったということになります。ちなみに、登録料を分納する場合でも(44,000円×2回)でしたので、とりあえずの登録完了までにかかる最低限の費用としては、65,000円ということになります。

 

現在と比較すると、約2倍程度の費用が必要だったことになりますね。
更新登録料なんて、3倍以上も高かったのです。

 

区分の数が増えれば、その金額差も一層広がります。
以下、1~3区分を商標登録する場合の費用総額の比較です。
※登録料は10年分を一括納付する場合

 

        現在    20年前
======================================
①1区分   44,900円   87,000円

②2区分   86,400円   168,000円

③3区分   127,900円   249,000円

 

20年前は、弁理士に依頼せずに自分で手続等を行なったとしても、これだけの費用がかかっていたということになります。現在の料金体系に慣れていると、「驚くほど高い」と感じられるかもしれませんね。

 

ちなみに、今回の記事では「20年前」と言っていますが、15年前の2008年6月1日までは同じ料金体系となっていました。

 

・費用が安くなることで懸念される「価値」の誤解

このように、今から20年前に必要だった費用を考えれば、現在の料金体系は、かなりユーザーフレンドリーになった印象があるのではないでしょうか。

 

冒頭の

 

商標登録にかかる費用は、安いか、高いか。

 

という点も、考え方が変わるかもしれませんね。

 

特許庁の手数料が安くなれば、より多くの事業者に商標登録制度を活用してもらえることが期待できますので、これはとても良いことだと思います。

 

一方で、あまりに安いとなると、それはそれで心配なことがあります。

 

というのも、一般的な人々の感覚では、「料金が高いものの価値は高い」、「料金が安いものの価値は低い」と理解されるように思われるからです。もちろん、実際にはそうとは限らないのですが、一般論としてはこの点を否定できないと考えます。自分がよく知らないものであれば、なおさらです。

 

つまり、商標登録にかかる費用が安く感じられると、「商標登録の価値は低い」と事業者に誤解されるのではないか、そのような懸念が私にはあります。

 

実際、この10年くらいで、商標登録が事業者の間で軽く考えられている傾向があるのではないかと疑問に思うことが、個人的にもよくありました。ドメイン登録と同じようなものとして、簡単に考えられているような印象です。

 

近年は、商標登録サービスの「安売り自慢」をしている特許事務所や弁理士も、ネット上でよく見かけます。最近、その数も増えたように感じられます。士業が料金の安さをアピールポイントにするってどうなのだろうと首をかしげるところですが、もしかすると、このような現状も「商標登録の価値」についての誤解を助長しているのかもしれませんね。

 

商標登録によって取得できる「商標権」のように形のないものについては、その価値がわかりにくいものです。必要となる費用があまりに高い場合は、制度の利用者が減ってしまう一方、あまりに安い場合も、その価値についての誤解が生じる原因となる気がします。

 

料金体系については、それらの均衡が保てる絶妙なところ(中庸)にもっていくのが、商標登録制度の利用を促進しつつ、その価値を正しく理解してもらうためにも、大切なのではないかと思います弁理士の手数料についても、同様でしょう。

 

今後も、おそらく特許庁の料金改定はあると思われますが、はたしてどうなるやら・・・。

 

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