「商標」というと、文字や図形の要素が一般的です。
しかし、商品・サービスを識別できる要素は、これらに限りません。
我が国でも、2015年4月から、商標登録ができる商標の種類が増えました。
これらは「新しいタイプの商標」と呼ばれることが多いのですが、具体的には、「音商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標、動き商標」についても、商標登録が認められるようになりました。
この中でも、特に世の中の関心が大きかったのは、「音商標」でしょう。
「音の商標」とはなんぞや、と思った方もおられるかもしれませんが、たとえば、テレビなどのCMで流れるジングル(短い歌や曲)を思い浮かべると、わかりやすいかと思います。企業名、商品名、キャッチフレーズなどが歌われることが多い印象がありますね。
さて、この「音商標」の商標登録ができるようになって早8年となりますが、実際に、どのような商標が、どれくらい登録されているのでしょうか。
今回は、これについて一緒に検索して見てみましょう!
・「音の商標」の商標登録の検索方法
これまでの記事では、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」を用いて、様々な文字や図形の商標を検索してきましたが、「音の商標」についても同様に検索が可能です。
ただ、今回は少し検索の手順が異なります。
ですが、検索方法としては、きわめてシンプルですので安心してください。
まず、例によって、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」にアクセスして、「商標検索」のページを開きます。
次に、画面の一番下の「検索オプション」のカラム(検索ボタンの真上)のところまで画面をスクロールして、右上の「開く+」をクリックします。クリックすると、オプション画面が開きます。
ここで、上から4番目の項目に「商標のタイプ」というのがありますので、左から2番目の「音商標」にチェックを入れます。
チェックを入れたら、画面下にある「検索」ボタンをクリックします。
388件がヒット!!
(※2023年10月25日現在)
このうち、現在審査中や審査待ちのものが約30件あるようですので、現在までに商標登録が認められた「音の商標」は、だいたい360件程度という感じでしょうか。ちなみに、なぜか1件だけ立体商標が混ざっていますが(笑)、おそらくデータへのフラグ付け作業のミスによるものと思われます。
・「音の商標」を試聴して愉しむ
さて、「音の商標」には形がありませんので、文字や図形のように商標としての記載ができません。検索結果にズラリとリストアップされた商標を見るとわかるように、「音の商標」の場合は、(1)五線譜で表すか、(2)文字で説明して特定するという方法がとられます。
いずれの場合も、実際の「音」を電子データ(実際には、音データを記録したCD-Rなどの光ディスク)で特許庁に提出することが必要です。
さて、この実際の「音」については、実はJ-PlatPatにおいて試聴することが可能です。
(「試聴」という言葉が適切かはわかりませんが・・・)
まず、どの商標でもいいので、気になる音商標の登録番号をクリックしてみてください。すると、その商標の詳細データが表示されます。そして、画面の右側に五線譜や音の説明文があるかと思いますが、その下に「音声再生」というボタンがありますので、これをクリックすることで、実際の音を試聴することができます。
これが結構愉しめます(笑)。
ぜひ、気になる音商標を実際に再生してみてください。
どこかで聞いたことがあるものが、たくさんあると思います。
・「音の商標」の検索結果からわかること
ところで、今回の検索結果にリストアップされた音商標を眺めてみると、次のような点に気付いた方も少なくないのではないでしょうか。
(1)登録件数が少ない
(2)権利者のほとんどが大企業
(3)歌詞(言語的要素)が含まれるものが大多数
音商標の商標登録ができるようになって8年も経つのに、約360件しか登録がされていないのは、たしかに少ないと感じられるかもしれません。
その理由の一つとしては、「音の商標」に登録が認められるハードルが意外に高いという点が挙げられるかと思います。
特に、「音楽的要素(メロディー、ハーモニー、リズム又はテンポ、音色等)だけ」の「音の商標」の場合は、そのハードルが格段に上がります。実際に検索結果を見るとわかりますが、歌詞などの言語的要素がないものの登録は数えるほどしかありません。
これは、「音の商標」とはいっても、商品やサービスを識別できてこその「商標」となりますから、原則的に、音楽的要素だけではそれが難しいと考えられることによるといえます。音楽的要素だけの「音の商標」に登録が認められるためには、それが一般にメチャクチャよく知られているといった事情がある場合に限られるといっても、過言ではないでしょう。そのハードルは、きわめて高いといえるはずです。
また、ジングルのような「音の商標」が使用される場としては、やはりテレビなどのCMがメインになると考えられます。すなわち、テレビCMが打てるほどの潤沢な資金がある企業くらいしか、そもそも「音の商標」を使っていないとも考えられます。そうすると、権利者のほとんどが大企業になるというのも納得いくところでしょう。
ちなみに、検索結果を眺めてみると、弁理士の個人による登録と思われる「音の商標」も数件見受けられます。また、「日本弁護士連合会」が権利者のものもありますが、これは実際に使われているものなのでしょうか。
私の個人的なお気に入りは、マルコメ株式会社の音商標(登録6130365号)で、実際に聴いてみて、「あれ?こんなに曲長かったっけ?」というツッコミをしてしまいました(笑)。
それから、群馬電機株式会社の音商標(登録6608744号)は、スーパーなどで使われる販促機器「呼び込み君」でも耳にする曲で、皆さんもどこかで聞いたことがあるのではないかと思います。なぜか、定期的に聞きたくなります(笑)。これは、音楽的要素だけで登録が認められている珍しいケースといえます。
ところで、このような「音の商標」の登録が認められるようになった当時、私は「J-PlatPatで五線譜と実際の音データが自由に参照できるようになったら、かえって高精度に悪用されるリスクが高まるのではないか?」と心配して(いろいろ言って)いたのですが、今のところ、そういったトラブルがあったという話は聞きませんね。
どうやら、「心配しすぎ」だったようです(苦笑)。
以上、今回は「音の商標」の商標登録を検索してみました。
========================
<このブログの筆者の弁理士事務所はこちら>
・紫苑商標特許事務所
<筆者への仕事のご依頼>
・本ブログからのお問い合わせ
・Twitterでは、更新情報をお知らせしております!
ぜひ、フォローしてみてください。
========================